採用してはいけない人
どの業界もそうですが、人手不足が深刻な経営問題になっており、採用業務は重要度が増しています。
最近、三翠園では私が採用面接を行っています。経営の重要課題ということもありますが、新しい人事部のメンバーに私の面接手法を見て、すべてを習得していただきたいからです。
私は、これまでに4000人は面接や面談をしてきましたので、履歴書を見て本人と少しお話しすれば、どんな人かどうか直感でわかります。これは別にすごいことでもなんでもなく、勘所がわかった上で、ある程度経験を積めば誰でも身につけられることだと思います。
これについては、少し面白いエピソードがあります。今から20年ぐらい前職でのことです。ある日、私の友人が履歴書を20枚くらい持ってきました。そして「うちで事務員さんを採用したいんだけど、どの人がいいと思う?」と言いました。私の会社はお掃除会社であり、年中採用活動をしていたので、経験豊富な私の意見を聞いてみたかったようです。私は、1分ほどサラサラサラ~と履歴書に目を通した後、「私なら、この4人から選ぶけれど、履歴書でわかるのはここまでかな。後は、本人と会って人となりなどを見ないとわかりません」と答えました。
友人は、私の会社で働いていた社員さんにも履歴書を見てもらい、意見を聞きました。彼女は高知県初の民間人キャリアカウンセラーでした。人を見る目は抜群で、私は彼女から傾聴による面接手法をたくさん学んでいました。彼女は、これまたサラサラサラ~と履歴書を見た後、4枚の履歴書を選んだそうです。なんと、その4人は私の選定と全く同じでした。
友人は、その後、何度か履歴書を持ってきて、そのつど私はサラサラサラーと見ましたが、私の見立てにほぼハズレがなかったそうです。それぐらい面接は場数を踏むと、見極めるポイントがわかってくるものです。しかし、私だけ面接のスキルが上がっても、会社にノウハウが蓄積されたとはいえません。このカンのようなものを伝えるためには、何度も面接に同席していただき、傾聴による面接手法をやってみせ、面接後に「あそこでこういう質問をしたけれど、あれにはこういう意図があって、あの方はああ答えたよね。そこからこういうことがわかるんだよ」というように、かなり丁寧に説明をするしかありません。
こうしたことを粘り強く続けていった結果、前職では面接を任せられる人が増えてきて、私が社長を退任するころには、私は面接にほとんど参加しなくなりました。だからといって、面接で完璧に見極められるわけではありません。どこまで面接スキルを高めても、初対面に近い人を見るのは難しいものです。
さて、採用面接は、企業側が価値観の会う人財を採用するためだけに行うものではありません。面接を受ける人にとっては、仕事を通じて幸せになるための会社探しの機会でもあります。ですから、私は、企業側の立場だけでなく、面接に来てくださった人の幸せを考えて選考するようにしていました。今もそうしています。端的にいうと、「会社の都合で採用しない」ということです。
採用する・しないを決めるのは会社ですが、会社に入社する・しないを決めるのはご本人です。会社側が無理にお願いして入社していただいてもお互いに幸せになれません。このことも過去の面接経験から身にしみてわかっています。
では、どうやって、当社に入社しない方がいい人を見極めるのかというと、それは傾聴しかないと思います。こちらの聞きたいことを聴いているだけではわかりません。相手が話したいことを聴くことが大事です。相手が話したい話の中に本音が隠れています。
もし、当社に入社しても幸せになれないと判断した場合は、ただお断りするのではなく、できるだけその人に合った会社を紹介して差し上げるようにしています。ありがたいことに社会人を40年近くしていますので、いろいろな会社の社長さんや採用担当者さんを知っています。ですから、そういう場合は「話を聴いていると、○○会社さんの方があなたに合っているように思います。もしよかったら今から○○会社の社長さんに電話して差し上げましょうか」などと話します。
前職では、喉から手が出るほど採用をしたかったため、合同説明会でも積極的に採用活動をしていましたが、そのような場でも当社に入社しない方がいいと思う人がいたら、ちゅうちょすることなく知り合いの会社のブースに連れて行って「この方は、当社を希望されましたが、お話を聴いているとおたくのホテルの方が向いていると思いますので、よろしくお願いします」とお世話して差し上げました。
私は、その人に幸せになっていただくために採用をします。入社したことを決して後悔してほしくないからです。ですから、「会社の都合で採用しない」ということを心がけています。
ちなみに、自分の会社のブースに来てくださった人を、同じような理由で私の会社のブースに連れて来てくださる会社があります。それはネッツトヨタ南国さんでした。