父の腕時計

2022年10月~2023年9月まで不定期で高知新聞さんの勧進帳の連載をさせて頂きました。
採用になるのは難しかったですが書いてきたものをここにアップさせて頂きます。

わが家には、高価なものは何ひとつない。しかし、僕には宝物といえるものがある。一つは36年前の領収書の控えだ。僕が家事代行業の仕事を始めた当時、この仕事はまだ世に知られておらず、お客さまにその価値を伝えることに大変苦労した。昼食を取る時間も惜しんで働いたことを思い出す。その時の1冊目の領収書の控えが、私の宝物だ。そこには、たくさんの人への感謝の気持ちがつづられている。僕の元気のもとといえる。
もう一つは父の腕時計だ。43歳で早世した父の遺品である。この時計を着けると、いまでも父に見守られている気がする。
いい年になった僕だが、ここ一番という勝負の時は、いつも父の腕時計を身に着けている。それを知っている友人たちは、僕が父の時計を着けているのを見ると「今日は勝負の日なんだね」と応援してくれる。
その大事な時計が15年程前から動かなくなってしまった。何度も修理に出したが、すぐまた動かなくなってしまう。「もう父の時計は動かないのかなあ」と諦めかけた時、人づてにどんな時計でも直せるマイスターが高知にいることを知った。現在、父の時計はマイスターの手で修理中である。父がまた僕を励ましてくれる日も近い。(夢)