雲外蒼天

社会人になったころから、飛行機に乗るのが怖くなり、大の飛行機嫌いになりました。遠方への出張もありましたが、何とかして飛行機を使わないようにしていました。
海外旅行に行った時は、さすがに飛行機を使わないわけにはいかず、とても往生したことを覚えています。滅多に行かない海外なのに、旅行中、ずっと「帰りの飛行機嫌やな」「怖いな」ということばかり考えてしまい、全然楽しめません。
さすがにこれは何とか克服しないと、人生を楽しめないと痛感しました。しかし、どうしたらいいのかわからず悶々と悩んでいました。そんなある日、何かのニュースで、飛行機の安全性を徹底的に解明する番組があることを知りました。しかも、5週連続で計5時間も放映するというではないですか。私の期待度はマックスに高まりました。
ところが、その番組はスカパー!(スカイパーフェクトTV)で放映されるというのです。「スカ? 何やねん?」。当時、日本初の衛星デジタル多チャンネル放送が始まったばかりで、私はスカパー!の「ス」の字も聞いたことがありませんでした。しかし、飛行機恐怖症を治したい一念で、何もわからないまま衛星放送の契約をします。
私は、大人になるまでは、大の飛行機好きでしたから、飛行機が飛ぶ原理については、とっくに知っていました。それがわかっていても怖かったのです。「そんな私でも番組を見ただけで、本当に飛行機恐怖症を克服できるのだろうか?」。 疑心暗鬼のなか、番組は始まりました。
番組では、まず、当時の最新鋭機ボーイング777(通称トリプルセブン)の安全性を徹底検証しました。バードストライク(鳥との衝突事故)に直面してもエンジンが止まらないことや、その理由も解説しました。
また、番組は、どういうふうに飛行機を運航していて、どうして安全なのかなど、実に多面的に解説していきます。統計的な数字も紹介し、飛行機による事故と、他の乗り物による事故との確率の差も明らかにしました。「この番組を見て、飛行機を怖いという人はおかしい」というぐらい、理詰めで、飛行機の安全性を説明してくれました。
番組の効果は絶大でした。この番組のおかげで、私は飛行機に対する恐怖心をほぼ克服することができました。元々、飛行機が好きだったこともあって、番組を見て以来、私は飛行機を怖がる側から、飛行機の安全性を熱く語る側になりました。
最近は、コロナ禍で飛行機に乗る機会はなくなりましたが、飛行機の中が一番安心したり、くつろげたりできます。飛行機の中では、なぜか、たくさんアイデアが浮かびます。面白いぐらいにアイデアが浮かび、ますます飛行機が好きになっていきました。ミュージシャンのパラダイス山元さんのように、飛行機に乗ることを目的にして、1日に何往復もするところまではいきませんが、私は、飛行機大好き人間に戻ることができました。

飛行機を怖がることはなくなりましたが、ヒヤリとしたことは何度も経験しました。海外便に乗った時の事です。機長さんが英語で何か長々と話していました。私は日本語もうまく話せない人間なので、ましてや英語はサッパリです。ですから機内アナウンスを聞いても何のことかわかりませんでしたが、客室乗務員がうろたえる姿を見て、ただ事ではないことがわかりました。日本ではありえないことですが、その飛行機の乗務員さんは見事なくらいの怖がりようでした。何が怖いって、お医者さんの絶叫と、客室乗務員のうろたえぶりほど怖いものはありません。
機内アナウンスや周囲の様子から、第何エンジンが火災を起こしたため消火し、これから緊急着陸するらしいことがわかりました。ただし、緊急着陸するためには燃料をできるだけ捨てて、火災による爆発を防ぐ必要があります。離陸したばかりの機体だったため、1時間ぐらいかけて燃料を捨ててから着陸するようです。
機内は、パニックになりませんでしたが、私だけは心臓バクバクでした。というのは、私の席はエンジンの隣で、客室乗務員が私の席に何度も来て、窓からエンジンを心配そうに見るからです。その様子が怖いのなんの。
着陸時、消防車がたくさん待機しているのを見て、「ありゃー」と思いました。冗談で済まないトラブルだったことが、次第に実感できました。
この他、海外の国内線ではこんなトラブルもありました。出発前、つなぎ服を着たメカニックが、何やら機長と真剣に話しています。もう嫌な予感しかしません。
予感は的中しました。さあ離陸という時に、機内に緊急事態の警告音が鳴り響いたのです。「いゃー、やっぱり・・・」。飛行機は離陸を取りやめ、滑走路を引き返します。何かの調整をして、また離陸態勢になり加速、しかしまた調子が悪くなり離陸取り止め。これをなんと4回も繰り返したのです。
私のメンタルはボロボロになりました。結局、5時間も飛ぶの、飛ばないのを繰り返し、最後にやっと離陸したのですが、さすがに生きた心地がしなかったですね。
ただ、思わぬ喜びもありました。待機している間、いったい何をやっているのかコックピットの方をのぞきに行くと、「こっちにおいでよ」とパイロットが呼んでくれたのです。今ではセキュリティー上考えられないことですが、操縦席に座らせてもらい、パイロットの帽子もかぶらせてもらって、記念写真を撮ってくれたのです。しんどいことが一瞬にして忘れられました。
日本の国内便でも、トラブルに遭いました。私が乗った飛行機は問題なく離陸したのですが、タイヤが格納できないというアクシデントが起こりました。その日、私は東日本ハウス(現日本ハウスHD)さんにお伺いするため、夜の便で花巻空港へ向かっていました。その便でのアクシデントです。「えー、今度はタイヤかいな!」と驚きましたが、だいぶトラブルに慣れたためか、それほど恐怖はありませんでした。タイヤが出ないなら問題ですが、格納できないだけなので、着陸には支障ないと思ったからです。
飛行機は引き返し、着陸して整備することとなりました。私は着陸後、勇気を出してただ一人だけ飛行機を降り、鉄路寝台車で向かうことにしました。朝の4時頃に花巻駅に着いた覚えがあります。雪の降る日でした。
今にして思えば、結構いろいろなトラブルに巻き込まれてきましたが、スカパーの番組の通り、私が乗った飛行機は、何とか安全に対応してきたようです。
今でも飛行機に乗るのは大好きです。特に、大雨の日の飛行機は大のお気に入りです。地上は土砂降りでも、離陸して雲を抜ければ、一転して晴れしか広がっていません。「これって、なんか人生も一緒だなあ」と思います。「どんなに今が困難でも、諦めずに突き進んでいけば、必ずいいことしかない!」。大雨の日の飛行機はそれを私に見せてくれているようです。ですから、大雨の日の飛行機は、もうルンルンです。
コロナ過で大変な三翠園は大雨の離陸前の様なものです。

※写真は高知中央市場で釣り人が持ち込んだ鮎