老舗のプロセス

老舗ホテルの三翠園に赴任して、はや、75日になりました。この間、とても気になったのは、スピード感と価値観の相違です。私は、思い立ったらすぐ取りかからないと気が済まないタイプですから、特にスピード感については気になりました。お客さまの声や社員さんの声を伺ったり、会社の課題がわかったりするたび、すぐ解決に向けて突っ走りたくなります。
では、三翠園で働いている社員さんたちは、こうした課題にどう対応しているのかというと、いままで会社が成長してきた過程で培った自分たちの「プロセス」(手順や方法)を基に行動しています。
入社して日が浅く、まだ三翠園の文化を身につけていない私が、いままでのプロセスを無視し、「これからはこうして、ああして」と指示命令することはできません。たとえ、それが自分の経験上、よりよい解決策だと確信していてもです。
次第に、「三翠園のプロセスを尊重した上で、そこに自分の経験をうまく組み入れて後押ししてあげれば、スピード感も上げられるのではないか」と思うようになりました。
価値観の共有についても、私の価値観を一方的に押しつけるのではなく、「なぜこういうことが問題なのか」「なぜこれをしなければいけないのか」と、丁寧に説明し続けることで、三翠園のプロセスに浸透させたいと思います。
しかし、何事もそうですが、老舗ホテルが培ったプロセスにも、いい面もあれば、悪い面もあります。悪い面は、新人に優しくないプロセスになっていることです。三翠園は、おおらかな風土もあって、社員さんの定着率は高く、多くのベテランさんが各部門を支えてくれています。それは大変有り難いことなのですが、見て習い、あうんの呼吸で仕事をする現場は、新人さんにとって大変負荷がかかります。
今、三翠園では新卒採用を積極的に推進しています。先日の就職セミナーでは、私も会場に出掛けました。たまたま、テレビの取材が入っているのを見て、気がつくと、私は取材クルーに駆け寄り「すいません、今、ホテル業界はコロナ禍で大変なので、取材していただけたら有り難いです」と、取材をお願いしていました。結果、私はちょっとだけテレビに出ることができました。
さて、このように率先して新人さんを勧誘していますが、今の現場に新人さんをそのまま配属したら、きっと多くの人は戸惑ってしまうでしょう。プロセスはあっても、そのプロセスを教える仕組みがないからです。
前職の清掃業は、一般的に離職率が高く、人の入れ替わりは日常茶飯事でした。社員さんの習熟度を合理的に高める工夫が必要でした。そこで、私が注力したのは、木目細かな研修です。この経験を通じて、新人が育つためにどういうふうにしたらいいか、どうやったらこの価値観が社員さんに伝わっていくのかをたくさん学んできました。この学びが、きっと三翠園の役に立つのではないかと思っています。社員さんは、ベテランさんもいれば新人さんもいます。みんなが幸せになれるような方法を考えていきます。