ひるむ上司
以前、新聞で「パワハラを恐れて上司が動かない」という内容の記事を見たことがあります。その記事によると、上司が動かない理由は、下手に部下に注意をしたり指導をしたりすると、すぐパワハラと言われるからだそうです。そう言われることが嫌なので、放任主義の上司が増えているということでした。
しかし、同記事では、上司が放任主義だと、部下が調子に乗ってパワハラを繰り返したり、他の職場よりパワハラ率が増えたりする傾向が見られるとも書いてありました。
最初に、パワハラに関する知識がない人がパワハラだと訴え、その意見に知識のある人も「そうだパワハラだ」と盲従します。もはや上司は、何を言ってもパワハラと言われる状態です。
私は、かつて前職の時、社内でいじめを繰り返す人に「パワハラをしないでください」と注意したことがあります。するとその人は、あろうことか「そっちこそパワハラや」「パワハラの注意のつもりかなんか知らんけど、これこそパワハラや」と逆襲してきたのです。その人にとっては耳の痛い話だったため、腹を立てたのだと思います。
しかし、ここでひるんでしまったら、被害者の社員さんを守れません。そこで、私は本件を労働基準局に相談しました。
最初に、職場における「パワーハラスメント」の定義ですが、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③社員さんの就業環境が害されるもの、この①~③までの要素を全て満たすものをいいます。本件はパワハラに該当する事案でした。
次に、パワハラ事案が発生した場合、事業主がすべきことは以下の通りです。①事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること、②被害者に対する適正な配慮措置の実施、③行為者に対する適正な措置の実施、④再発防止措置の実施、⑤当事者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知、などです。ここでいう「行為者に対する適正な措置の実施」とは、行為者に対して会社の懲戒規定に沿った処分を行い、かつ行為者の言動がなぜハラスメントに該当し、どのような問題があるのかを理解させることなどを指します。
「そっちこそパワハラや」と言われないようにするためには、事実関係を確認せずに相手を加害者と決めつけて叱責したり、人格を否定するような言動をしたり、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返したり、他の社員さんの面前で大声で威圧的な叱責を繰り返したりしないようにする必要があります。それらが守れていれば、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラには該当しないという返答でした。私は、このように、労働基準局のお墨付きをもらったことで、臆することなくパワハラに立ち向かうようになりました。
少し注意しただけでパワハラと言われる時代です。経営者や上司は大変だと思います。しかし、「パワハラや」と言われても、ひるむことなく闘っていただきたいと思います。会社として、ダメなものはダメだとはっきり言うことがパワハラを起こさせない風土をつくることにつながります。ですから、パワハラにはひるまず立ち向かってほしいと思います。