「かなり」「いつも」「すごい」って本当?
私は、日頃から現場の社員さんの不満や要望などに耳を傾けるように心がけていますが、その際、気になる表現が顔を出すことがあります。それは、「こういうケースがかなりあるんですよ」「これをやりたいんですが、かなりお金がかかるみたいです」という表現です。私は、この「かなり」がかなり気になります。
社員さんに「それは具体的に何件あるの?」と尋ねると、ほとんど答えられません。つまり、数字の裏付けを持っていないのです。私は、「かなり」と言うだけで動いていく組織が苦手です。というのは、前職で苦い経験があるからです。
前職では、若い頃に、自分の意見をまったく聞き入れてもらえなかったので、自分が経営者になった時は、現場の意見を聴いて経営しようと思っていました。
ですから、現場の社員さんから「かなり」「いっぱい」「いつも」と言われたら、「それはいかんね、すぐ対応しよう」と行動したものです。ところが、実際、対応してみると全然件数がなかったということが何度もありました。考えてみれば、「かなり高い」といっても、1万円なのか10万円なのか、はたまた1000万円なのかわかりません。人によって「かなり」の感じ方に違いがあるからです。
以来、私は「かなり」とか「いっぱい」とか「いつも」といった主観的な言葉を聞いた時は、「かなりって具体的にいくらなの?」「いつもって何回あったの?」と定量化した数字を尋ねるようにしました。
私が思うに、社員さんが大げさかつ漠然とした表現を使うのは、心理的にやりたくないので、否定的なイメージを大きくアピールして、なんとか事を進ませないようにしているからだと思います。
かく言う私も、幼い頃、おもちゃを買ってほしかった時には「みんな買ってもらっているから」などと言って、母に盛大にアピールしたものです。ですから、気持ちはよくわかります。
三翠園は、新館を除いて手を入れなければいけない箇所がたくさんあります。現在、なんとか大事に使っている状態です。当然、このような会話がよく聞こえてきます。
「ここのじゅうたんは張り替えたいよね」
「でもすごい金額がするらしい」
「ほんなら無理やね。止めておこう」
これまでは、このような会話になると具体的な金額になる前に、話が終わっていました。しかし、見積もりを取ってみると、何千万円もしそうなじゅうたんの張り替えは、実は部分的にすれば50万円でできました。
こんな話もあります。
「どんでんで、こんなに時間がかかるんだったら、最初からここをそうしとったら楽だよね」※ホテル業界では、宴会場を作り変えることを「どんでん」といいます。
「でもその工事ってかなりするらしいよ」
「そうか・・・」
このケースも同じです。実際いくらかかるのかは工事の見積もりを取ってみなければわかりません。それをしないということは、お客さま満足を損ねることにもなりかねません。お金がないことをやらない理由にしているだけだと思います。
確かに、三翠園は経営再建途中です。お金に余裕はありません。とはいえ、お客さまにご迷惑をおかけするわけにもいきません。ですから、優先順位を付けて改修工事を進めています。
一方、突発的に設備器具が壊れた時のための予算も組んでいますので、緊急性と必要性に応じて、お客さまから指摘していただいたことを、少しずつ改善していっています。おかげさまで、設備・備品といった「物」に起因する苦情は減りました。
今後も、知恵を出して、定量面(数字に表れる)のサービス、定性面(数字に表れない)のサービスの両方を改善していきたいと思っています。