嫌われ役

三翠園は、これまでお付き合いで諸団体の会員になったり、ありとあらゆる協賛広告や寄付を出したりしていました。しかし、今は、金融機関さんにご支援いただいて、経営を立て直している最中です。命がけで経費の見直しをしなければいけません。お付き合いをしている余裕はまったくありません。

まず広告宣伝費ですが、集客の柱である旅行会社のサイトへの広告出稿ですら、かなり絞り込んだ年間予算を組んでおり、予算外の広告出稿は一切行っていません。
お金をかけた広告を徹底的に削減する一方、マスメディアへの露出を積極的に推進しています。話題になりそうな企画を考え、ニュースリリースをばんばん出すことで、テレビ・新聞等への露出を格段に増やしています。お金は出せませんが知恵は出せます。懸命に考えればアイデアは無限に出るものです。
 協賛広告についても、「この協賛が本当に宴会につながっているのか」「売り上げにつながっているのか」と、疑問に思うものがたくさんありました。そういうものについては「今、経営が大変厳しい状態ですから、申し訳ないですが協賛を辞退させてください」と説明して、かなりの協賛をお断りしています。
お断りできないものについては、費用対効果に見合う金額に変更していただいています。例えば、売り上げと費用を計算したところ、協賛広告を3分の1にするのが妥当と思った場合は、「すみませんが、今回は広告出稿を3分の1にさせてください」とお願いしています。
協賛先のお客さまにしてみれば、「これまで1ページ付き合ってくれていたのに」と思うかもしれません。しかし、きれいごとを言っていたら会社は倒産してしまいます。そうなったら元も子もありません。会社を黒字にするまでは覚悟を持ってやっていくしかありません。きっと、私は相当評判が悪いと思います。それでも、嫌われごとは全部私の代で済ませておこうと思っているので、そのようにしています。

次に会費ですが、これについては1年間かけて「これは本当に必要なんだろうか」「今後どうなんだろう」と、一件一件ゼロベースで必要性を精査しました。その中には、「一度おせち料理を注文していただいたから」とか「一度宴会でご利用いただいたから」という理由だけで、会員になっている先もありました。
私にしてみれば、単に断るのが面倒くさかったり、いい格好したいだけだったりとしか思えません。経営として無頓着だったと思います。こんなにたくさん諸団体の会員になっていること自体おかしなことです。何もジャッジしてこなかったことに悔しさを感じます。
私は、会費については、たとえ年間1000円であっても、どうしても必要なものでない限りお断りしました。しかし、中には急に脱退するとご迷惑をおかけしてしまう団体もあります。かといって、金融機関さんにご支援いただいている立場上、会社でこれまで通り会費を負担するわけにもいきません。そういう場合は、先方に事情をお話しした上で、「今回は、私が私費で会費をお支払いしますが、次回からはご遠慮させてください」とお願いしました。こうして1年かけて会費の選別を進めたのです。
取捨選択をする過程で、驚きの事実が判明しました。それは、会員になるかならないかの意思決定のプロセスがあいまいだったことです。1人の役員の“鶴の一声”で決めてしまったものもあれば、稟議(りんぎ)が中途半端で決裁が下りていないもの、中には役員が意思決定すらしていなく、担当者が勝手に入会していたものもありました。入会の意思決定プロセスに整合性がまったくありません。
当然、脱会の意思決定プロセスなど決まっているはずもありません。そこで、脱会の際は、継続した場合のメリットとデメリット、脱会した場合のメリットとデメリットを全役員で議論して決定するというルールを作りました。
このプロセスが正しい判断につながるかどうかはわかりません。未来のことは誰もわからないからです。しかし、少なくとも今現在の最善策をみんなで考えようということです。最終的な決定は、社長の私が責任を持って決めるようにしました。

 交際費についても、経営再建の途中ですから抑えられるだけ抑えるようにしています。過去の実績を精査してみると、20年前に一度、結婚式で利用してくださったというだけで、ずっと先方の宴会に付き合いで参加したり、協賛したりしていた例もありました。「一度でも利用してくだされば、その方はお客さまだ」という考え方なのでしょうが、これって会社としてどうなのかなあと思い、宴会やゴルフの参加などについても、交際費の適用ルールを厳格に見直しました。ルールを作るに当たっては、既存のお客さまをないがしろにしないように、最近10年間の宴会利用状況などを調べて、慎重に設定しました。
 お客さまからは、おおむね、「まあ仕方ないね。がんばってね」というありがたい声を頂戴しています。中には「もう2度と宴会で使わん」と思ったお客さまもいらっしゃるかもしれませんが、会社を立て直さなければいけませんので、致し方ないと考えています。

交際費ではありませんが、採算を度外視した過度なお付き合いも見直させていただいています。例えば、私が着任した当時、あるお客さまに単価1000円を切るお弁当を少数、毎日配達していると聞いて、びっくりしたことを覚えています。担当者は宴会につながるかもしれないと思ったようですが、私には、単価1000円のお弁当のお客さまが、高額な夜の宴会を利用してくださるとはどうしても思えませんでした。
これは直ちに止めなければいけないと思い、お客さまに代わりの業者さんをご紹介して、お弁当の配達を止めさせていただきました。万事そうですが、これをやることによってどういうメリットがあって、最終的にどう会社に利益をもたらすのかを考えていけば、全ての答えが出ると思います。
先日、私が所属しているある業界団体さんが、わざわざ三翠園を宴会で利用してくださいました。非常に宴席が盛り上がり、幹事さんから「少し時間を延長してほしいんだけど」というお願いがありました。
幹事さんは「大したことじゃないので何とでもなるだろう」と思ったのでしょうが、実はホテルの時間延長は大きな問題なのです。お客さまが30分延長すると、アルバイトさんへの支払いが増えたり、社員さんに残業代を支払ったりで、採算が合わなくなってしまうからです。
ですから、私は「すみません。無理です」と即答しました。これでまた、大勢の方に「あそこはなんや。生意気や。何してんのや」と言われるかもしれませんが、採算度外視で仕事をするわけにはいきません。
もし、いい格好をして「はいはいどうぞ」と返事したら、周りの社員さんたちはどう思うでしょうか。「いつも『業務を見直そう』『利益を追求しよう』と言っているくせに、自分の知り合いは採算度外視でいいんか」と思われてしまいます。これでは社員さんを幸福にする経営にはならないと思いました。結果、その場のお客さまを一瞬にして不幸にしてしまいましたが、それはそれで仕方がないことだと思っています。
今回、お客さまからのお願いに対して即答しましたが、どうしてそれが即答できたのかというと、実はその場で決めたことではなかったからです。「こういうときがあったら、そうしよう」と前もって決めていたから即答できたのです。想定内のお断りだったのです。
高知は小さな町です。「たかがホテルの社長が、お客さまからの依頼を言下に否定するなんて、偉そうだ!」と陰口を言われるかもしれません。しかし、お断りすることは、偉そうなことなのでしょうか。私はそうは思いません。
例えば、車を100万円で購入する契約を交わしたとします。契約した後で「オプションをおまけでつけてほしい」という人はいません。しかし、形のないサービスは、当日になって「なんかもうちょっとやってくれてもええやん」みたいなことを言われることがよくあります。私は、前職の家事代行業でも散々苦労しました。しかし、お客さまのいいなりにサービスしていたら、社員さんを幸せにできません。会社も幸せになりません。できないことは、できないとお断りするしかないのです。それをするのも社長の仕事です。

最後は寄付についてです。現在、原則として寄付は全てお断りしています。ただし、現金な話ですが、宴会で利用してくださるお客さまは、その利益によってはお受けしています。
しかし、これまでの寄付のデータを見ると、全く三翠園と関係のない、他方面の団体にも寄付をしており、「なぜ?」と首をかしげることがたくさんありました。そういう先については、「申し訳ないですが、今、寄付をしている余裕がありません」と説明してお断りしています。
ただし、社会貢献の寄付行為が、三翠園の知名度やイメージ向上につながったり、売り上げや利益につながったりするなら、寄付もありだと思っています。そこの選択については、自分で考えた明確な方針がありますので、ブレずにやっていきたいと思っています。
会社としては、原則、寄付をしていませんが、個人とし寄付することはよくあります。その場合は、名前などが出ないようにしています。これは、私のメンターである福島正伸先生の影響でもありますが、こっそり寄付する方がカッコイイし、自分も好きなのでこのスタンスでやっています。