広がる朝礼の輪

ようやく少しずつ朝礼の輪が広がってきています。
私が三翠園に入社したのは2022年6月ですが、その当時の朝礼は、別館にある人事部の部屋で、幹部が経営理念をボソボソと読み、その後『職場の教養』(倫理法人会)をこれまたボソボソと読んで、フィードバックも会話もなく、その日の議題にはいっていました。そのような朝礼を毎日義務的に繰り返していたのです。当初、あまりのカルチャーショックにびっくりしたことを覚えています。それでも新参者ですから1カ月間は何も言わずに我慢しました。
翌月は、「せっかく、先輩たちが作ってくださった経営理念と行動指針があるのだから、それを使った朝礼をしませんか」と提案し、私が見本を示すことにしました。まず、経営理念を読み上げ、次に、毎日、行動指針を一つ選び、それについて私なりの解釈をお話ししました。これを1カ月続けました。
私の朝礼を見ていた人は、「何やっとるんやこいつ、時間の無駄や」とか「はよ、仕事の話をさせえ」と思ったことでしょうが、これは非常に重要なことなので、冷ややかな視線にも負けず、頑張って続けました。
十分見本は示しましたので、次の1カ月は、経営理念の読み上げと経営指針に対する解釈を、輪番制で話していただきました。私は、リーダー役になって、社員さんが話してくださった内容について、メンタリング手法を使ってフィードバックを行い、発表者を元気づけていきました。こうして、疑心暗鬼の中、新しい朝礼がスタートしました。
内心、どうなることか心配だったのですが、いざ始まってみれば、朝礼はどんどんよくなっていきました。さすが優秀な社員さんたちです。以前は、お通夜のような朝礼でしたが、すっかり様変わりしました。

当初、朝礼は離れ小島の別館でやっていましたが、これでは全社に浸透しないことから、この年の11月、朝礼の場所を本館の事務所に移し、他の部門の社員さんにも参加を呼びかけました。
しかし、これが非常に評判が悪く、ほとんど参加していただけません。参加してくださる人はいつも同じ顔ぶれで、大半の人は「本日朝礼します」と言っても無視です。「私は関係ないから」という状態です。強制はしたくなかったので、悲惨な出だしになることは覚悟していました。
そうこうしているうちに、いろいろな事が起こります。全社員さんとの個別面談もそうですし、社員さんとお食事をご一緒したり、お酒を飲みに行ったり、トラブルもあったりと、いろいろな事がありました。その都度、組織の問題は社員さんのせいではなく、全て経営者の責任であることを言い続け、正直におわびしてきました。
やがて、社員さんとの間に少しずつ人間関係ができてきたように思います。「今までと違いますね」とか「働きやすくなりました」とか「こんな意見も聞いてもらえるんですか」と言っていただけることが増えてきたのです。
こうしたことを機に、私は信頼関係ができた社員さんに声をかけ始めました。
「ごめんやけど、一緒に朝礼を手伝ってくれんかなあ」
「朝礼に誰も参加せんやろ、もしよかったら一緒に来てくれたら助かるきに」
このような声かけをして、一人ひとりと参加者を増やしていったのです。
うれしいことに、朝礼に参加してくださる仲間が日を追うごとに増えてきました。朝礼に対する前向きな言葉も聞こえてくるようになりました。こうして、事務所の朝礼は、電話を受けている人を除いて、全員参加してくださるようになったのです。ようやくスタートラインに立てた思いでした。

ここから、ワクワクする朝礼に進化させていきます。2023年1月からは、発表者が話した後に、全員で「いいね!」を言うことにしました。私の友人で講演家の大嶋啓介さんがその場を盛り上げるためにしているかけ声です。片手の親指を立てて、発表者に向かって全員で「いいね!」と言います。
私は慣れていますので当たり前のようにしますが、皆は初めてですから「なんやねんこの朝礼は」「会社でこんな朝礼をするんかい」と、めちゃくちゃ恥ずかしがりました。
次は、朝礼の締めに「接客七大用語」を唱和するようにしました。「接客七大用語」とは、接客業の基本となるあいさつや言葉で、「いらっしゃいませ/かしこまりました/ありがとうございます/少々お待ちください/お待たせいたしました/恐れ入ります/申し訳ございません」の七つです。これに関しては、さすが宿泊業のプロです。ビシッと声がそろいました。
「いいね!」に慣れたら、次は「ハイタッチ」です。仲間と触れ合うことで一体感が醸成できます。これは、友人の志村保秀さんが経営する株式会社ジェイジェイエフさんが行っている手法です。ジェイジェイエフさんは、NHK「おはよう関西」の「元気な中小企業」コーナーで「野球を経営に取り入れ、社員の自主性に任せたおもしろい会社」と紹介されて話題になりました。
自分たちを野球のチームに見立てて、自分たちをJJFベイスターズ(志村さんは横浜DeNAベイスターズのファン)と称しています。プレーヤー(社員さん)は、野球の試合のように円陣を組んだり、ハイタッチしたりして盛り上がっています。この「ハイタッチ」を三翠園に取り入れたのです。
朝は、「ハイタッチ」をして、あいさつをするようにしました。仲間と触れ合えば、自然と皆が笑顔になります。ここで、ようやくクレドとゴールドスタンダードの出番を迎えます。これらは1年かけて、全社員さんの意見を集約して作った三翠園の魂です。この新しい経営理念と行動指針を使った朝礼が始まりました。
朝礼の仕上げは、「みんな大好き!」です。これは、私のメンターである福島正伸先生が、講演の締めにされているかけ声とポーズです。やり方は、足を肩幅に広げ、左手は腰、目はうつろ、右手は軽く握って突き出す準備をします。そして、大きな声で「みんな大好き~」と叫びながら右手のひらを開いて斜め右上30度ぐらいに突き上げます。あまりのゆるゆる感に、どうしたって全員笑顔になります。皆でやるので一体感もでます。何より楽しく朝のスタートを切ることができます。

2024年、このにぎやかな朝礼は社内に広がっていきました。別の職場の人も時間が空いている時に、少し顔を出してくださるようになってきたのです。そのうちに、「うちの職場でもやってみたい」という声が聞こえてきました。
こうして、宴会のお料理を出してくださるサポートメンバーのチームでも朝礼が始まりました。すると、今度はお部屋の清掃後のチェックや調えをお願いしているメンバーも朝礼を始めてくださることになりました。しかし、問題がありました。「せっかくならクレドやゴールドスタンダードを用いた朝礼に挑戦したいのですが時間がありません」と言うのです。
事情を尋ねたところ、自分たちが朝礼に時間をかけていると、お掃除の方が次の部屋に取りかかれないため、お掃除をする方に迷惑をかけてしまうと言います。
このままでは、いい会社にするための朝礼が、仕事に支障を来す要因になってしまいます。しかし、やり方は100万通りあります。それなら、清掃部門の人と一緒に朝礼をしたらいいのではないかと思いつきました。
早速、清掃部門の方に話したところ、あに図らんや「実は、私たちもこうした朝礼をやるべきだと思っていました」と、もろ手を挙げて賛同してくださいました。これまでは、不定期に集まって、打ち合わせや困りごと、悩みごとなどを話し合っていたそうですが、間が空いてしまうと、どんどんしんどくなってしまいます。朝礼は、前日に起こった困りごとなどを話せる機会になるので、自分たちも朝礼をしたかったということでした。こうして清掃部分の方も朝礼に加わってくださいました。

このように朝礼の輪は少しずつ広がっていますが、全社的に見ればようやく道半ばといったところです。しかし、それでもいいと思っています。焦らず、無理せず、自発的に広がっていくことが大事です。朝礼は、強制したらやらされ感しか残らないからです。
自分たちが思い描く理想の会社を書いたクレドとゴールドスタンダードは、いわば“会社の姿見”です。毎朝、鏡を見て身だしなみをチェックするのと同様に、毎朝、クレドとゴールドスタンダードを読み上げ・意識することで、心のありようと行動をチェックできます。毎日、理想の姿を意識し続けなければ、価値観は絶対にそろいません。続ければ、新たな気づきも生まれ、必ず自分たちの会社はよくなっていきます。「とにかく信じてやってみてください」「数カ月やってみれば必ずわかります」と説いています。
 社長を見て仕事をする必要はありません。見るべきは皆で作ったクレドとゴールドスタンダードです。そこには、皆が思い描いた理想の三翠園が書かれています。私も、社員さんと同じく、クレドとゴールドスタンダードを見て仕事をしています。こうした思いが、波紋のように社内に浸透していってくれたらうれしい限りです。