熱心に尽くす

1999年は、私にとって運命的な出会いが続きました。その日は、名古屋の「羽根田商会」という、主に自動車の部品を製作している会社の佐藤社長とお会いしました。この社長さんもホウ・レン・ソウを勉強している方で、すっかり仲良くなり、「明日の社員研修もどうぞ」と言ってくださったので、参加させてもらうことになりました。研修会に招聘(しょうへい)された講師は、起業家コンサルタントの福島正伸先生でした。
福島先生は、実際にあった話を基に、いままで聞いたことがない話をされました。極めつけは大阪の「小松屋」という酒屋さんの話でした。お父さんの酒屋が一度つぶれそうになって、それを立て直そうとがんばった社長さんの話です。しかし、大阪の町には、すでに酒屋さんがいっぱいひしめいており、お店はどこもガッチリ押さえられていました。なかなか新規参入は難しい状態です。そこで、社長は戦略を立てました。それは、老舗の大きなスナックにはアプローチしない、一番利益の少ないビールから納めさせてもらう、というものでした。
社長は、他社より熱心に通わないと相手にしてもらえないと考え、ビールを卸に行く度に、ビール・サーバーをきれいに掃除したり、納品する時にはビールのラベルをきれいに並べ直したりしました。さらには、スーパーマーケットなどで店主とお会いすると、店主の荷物を持って「店へ持って行きましょうか」などと、酒の販売とは直接関係のないことも喜んでしたそうです。
やがて、こうした地道な努力が報われて、店主から「兄ちゃん、ウイスキーも入れてくれるかい」とか「ワインも頼むよ」と声をかけてもらえるようになりました。そして、ついにはアサヒビールの社長(当時)樋口廣太郎さんからも一目置かれる経営者になったのです。
 今では、採用に力を入れ、志ある仲間を増やし、国内外に飲食店のアンテナショップを展開したり、ワインの本場フランスに駐在員をおいたりするまでになっています。
私は、福島先生から小松屋さんのお話を伺って、どうしてもじかに藤田社長さんのお話を伺ってみたくなり、いきおい押しかけてしまいました。

この話にはちょっとした後日談があります。高知に、経営にとても熱心な飲食店のママさんがおられます。知り合いのママさんです。このママさんから、ある日「ぜひ小松屋の社長さんを紹介してほしい」と頼まれました。
藤田社長にお話ししたところご快諾くださり、私とママさんは大阪のとある居酒屋さんで藤田社長とお会いすることになりました。
ママさんは、藤田社長に、熱心にいろいろ質問されていました。中には社長もわからないことがありました。すると、社長は携帯を手に取り、社員さんらしき人を相手に「ちょっと来て」と言いました。程なく社員さんが現れました。ママさんの質問に答えると、その社員さんは帰って行きました。
その後、私たちはお店を変えて歓談を続けました。しばらくすると、また社長が答えられない質問がありました。社長は、携帯電話で「ちょっと来て」と言いました。すると、またもや社員さんが現れたのです。それも先ほどの方とは違う人でした。
私たちは、質疑応答の中身もさることながら、どこからともなく現れる社員さんに興味を持ちました。飲み屋さんが忙しいこの時間帯は、営業担当者がすぐに駆けつけられるように、何もなくても地域をぐるぐる回っていることを知りました。小松屋さんが続けてきた、一生懸命で熱心なお客さま対応の一端を見た思いでした。

昨年、私が三翠園の社長に就いた際、アサヒビールの方がごあいさつに来てくださいました。その方は、関西にいらっしゃった方で、中国・四国の責任者でした。それを知って、私が小松屋さんの話をしたところ、非常に話が盛り上がったものです。
一生懸命かつ熱心にお客さまに尽くすことの大事さ、このことを社長就任時に改めてかみしめさせていただきました。