経営理念などのつくり方

経営理念や経営方針は、経営を行う上で軸となるものであり、企業の目的、目標、価値観、方向性などを明文化した、いわば企業にとっての道しるべです。私の知り合いの経営者さんも、ほとんどといっていいくらい、経営理念や経営方針をもち、それに沿って経営をしています。
ところが、私が講演などで経営理念についてお話しすると、参加してくださった方から「経営理念はつくりたいが、どうつくればいいのかわからない」という声をよくお聞きします。何人かの経営者さんからは、経営理念のつくり方について、具体的な相談を受けたこともあります。
そのようなときは、「まずは、当社の経営理念や経営方針を、たたき台としてマネするところから始められてはどうですか」「いいと思ったところは、どんどんマネしてください」「御社でバージョンアップされたら、ぜひ当社にフィードバックして、私に気づきを与えてください」とお話ししています。
実際、当社の経営理念や経営方針をマネしてくださった経営者さんは相当数いらっしゃいます。特に同業者さんにはたくさんマネしていただきました。とっかかりは、それでいいと思います。当社の経営理念も、最初のたたき台は他社さんの寄せ集めでした。
最初から完成形を目指してもうまくいきません。いきなり「私たちは~」などと完成形でつくろうとしないことです。
私は、まず、社員さんに自社の良いところを50個書き出してもらいました。悪いところは100も200も思いつきますが、いいところはなかなか書けないものです。ですから無理して書いてもらいました。社員さんから挙がってきたものは、「お客さまが一流」とか「歴史がある」とか「業界では1位」など、表面的なものがほとんどでした。
当時、私は常務でしたが、「常務が若い」ということも、年取った経営者より伸びしろがあるという意味で、良い点に挙げられていました。また、私は大変にせっかちでしたが、こうした短所も無理やり、良い点に変換されて「行動が早い」として挙げられていました。
なんだかんだで、50人くらいの社員さんに、1人50個ずつ、当社の良い点をひねり出してもらいました。そうこうしていると、いろいろなキーワードが見えてきます。それらを見ていると、「ということは、うちの会社はホウ・レン・ソウを大事にしているんやな」「夢を大事にしているんやな」ということがわかってきます。これが経営理念の基になります。「みんなの笑顔がこじゃんとうれしい」というキャッチコピーは、こうした作業から生まれたものです。
キーワードがたくさん集まったら、次は、グルーピングです。同じ種類の意見を集めて、いくつかのカテゴリーに分けます。次に、私は、ザ・リッツ・カールトンのクレドを参考にして、「この言葉はお客さまに対して」「これは仕事の品質について」「これは自分自身のあり方について」というように言葉を当てはめていきました。当時、13個程のカテゴリーに分類したと記憶しています。最後は、カテゴリーごとに、選んだ言葉を組み合わせて磨き上げます。こうした作業によって行動指針をつくっていきます。

今回、三翠園でも、社員さんにアンケートを実施し、「三翠園をどのような会社にしたいのか」「三翠園の強みは何か」などについて意見をお聞きしました。アンケートは社員さんの大切な総意です。この中にキーワードが必ずあります。それを見つけ出します。
一方、三翠園には、すでに立派な経営理念と行動指針があります。それも大切にしながら、そこに社員さんの総意から見いだした言葉を入れて、既存の経営理念と行動指針をブラッシュアップしたいと考えています。
ただし、社長が一人で進めてしまうと、社員さんにとって「私たちの経営理念、行動指針」という意識が醸成できないため、要所要所で、社員さんや幹部の方の話を聞きながら、皆でつくり上げていきたいと思います。
経営理念や行動指針は、「完成したら終わり」ではありません。それを浸透させ、実践していかなければ絵に描いた餅になってしまいます。そうならないためには、勉強会や研修を繰り返す必要があります。そうすることで、組織は間違いなく変わっていきます。
「経営理念などをつくったが、社員にまったく浸透しない」という相談を受けることがあります。この場合の原因は二つ考えられます。一つは、経営理念などをつくる際、外部のコンサルティング会社に丸投げした場合や、どこかの会社の経営理念などをそっくりマネしてそのまま使っている場合です。どちらも社員さんの総意が反映されていません。その経営理念などに、自分たちが大切にしたいと思わないことが書かれてあったら、社員さんはそれを大切にするはずがありません。同じように、自分たちがやりたくないと思うことが書かれてあったら、社員さんはそれをしようとするはずがありません。
もう一つの原因は、経営理念の浸透のさせ方がわかっていない場合です。いくら社員さんの総意を基に立派な経営理念などをつくったとしても、浸透のさせ方がわからなかったり、間違っていたりしたら広がるものも広がりません。経営理念などの広げ方については、別の機会に詳しくお話しいたします。