聖なる夜(その3)

ついに玄関の扉が開き、緊張する私の前に奥さまが顔を出しました。奥さまは、サンタクロース姿で直立不動の私を見るやいなや「えっ! もー最幸!」と叫びました。その第一声で、私はどれほど救われたことか。ほっと胸をなで下ろしました。
まずは仏壇にお参りさせていただき、お子さんたちにプレゼントを手渡しました。みんな大喜びでした。聖なる夜に笑い声が響きます。

それから年月が過ぎ、2019年のクリスマスイブの夜がきました。一番下の幼稚園児だったお子さんは大学を卒業予定で、小学生だった上のお子さんたちは、消防士とパティシエ(洋菓子職人)です。どうやら、就職に困ることはなさそうです。もう当社の出番はありません。お母さんがしっかり子どもたちを育て上げてくれたのです。
「今年のクリスマスでサンタクロースはおしまいです」。私は、そうごあいさつをさせていただきました。

サンタプロジェクトは14年間続きました。年を重ねるたびに社内のクリスマスイベントとして定着していき、気がつくと当社の年末の風物詩になっていました。
毎年、社内報でサンタクロースの訪問を希望する社員さんを募り、クリスマスイブの夜になると、私たちはサンタクロースに変身して、プレゼントを配って歩きました。
しかし、発端となった彼のお子さんたちは立派に巣立ちました。私も2019年5月に社長を退いたこともあって、聖なる夜のサンタプロジェクトはその年で終えることにしました。

 サンタプロジェクトには、いろいろな人がかかわってくれました。プレゼントを購入していたおもちゃ屋さんにも人の歴史があります。私は、プレゼントを渡すお子さんのご家庭や年齢などを店主に話し、一人ひとりのプレゼントを選んでもらいました。店としては、面倒な注文だったと思いますが、気持ちよく協力してくださいました。当時、高校生だった店の娘さんは、すっかり大きくなり結婚しました。今、そのおもちゃ屋さんを継いでいます。

今年、私は三翠園で働いています。間もなく三翠園でもクリスマスイブを迎えます。たくさんのお客さまが、いろいろな思いをもってお泊まりにこられます。どういう形かは内緒ですが、聖なる夜に、また、サンタクロースが現れるかもしれません。