ゼロワン理論(後編)

お客さまに手持ち花火を楽しんでいただく企画は、手探り状態で始まりましたが、ある程度いけそうな感触をつかむことができました。来年がさらに楽しみです。
花火に関しては、ちょっとしたエピソードがあります。高知市では、7月から8月にかけてインターハイ(躍動の青い力四国総体2022)が行われていました。三翠園にも宿泊してくださっていた高校があります。ある高校は、惜しくも決勝まで勝ち残れませんでしたが、予定していたこともあり、もう1泊してくださることになりました。
三翠園としても、何か生徒たちに高知県の思い出を残してあげたいと思い、花火をプレゼントしました。生徒たちの楽しそうな様子は、監督さんに許可をいただいて、SNSにアップさせていただきました。こうして、手持ち花火の企画は、偶然、高校生たちの「ひと夏の思い出」に花を添えることになったのです。
さて、花火の企画は、業務に組み込まれた段階で、総務さんと連携し、経理処理などの引き継ぎをお願いしました。なんとかスムーズにバトンタッチできたのではないでしょうか。
今回の花火の件でもそうですが、もう少し部門間の連携が必要だと思います。現在、どの部門もきっちり自分たちの仕事をしていただいていますが、ほんの少し、他部門を応援するようになってくれれば、もっと部門間が円滑になり、組織も活性化します。
お客さまの感動は、連携プレーによって生じます。どこかの部門だけが優れていてもお客さまの感動は得られません。例えば、料理がいくらおいしくても、売店が不親切だったり、通路の窓ガラスが汚れていたり、空調の調子が悪く快適でなかったりしたら、きっと幻滅してしまいます。
しかし、お客さまが駐車場からフロントまで案内されている途中、ふともらした「楽しみにしていたのにおなかの具合がよくないんだよね」というつぶやきを駐車場係が拾い、その情報をフロントにつなぎ、フロントはおもてなし部門と調理部門につないだとしたらどうでしょうか。結果、部屋での食事の際、希望を聞いておかゆをご用意することができ、お客さまに喜んでいただくことができます。こうした連携プレーは、お客さまの期待を超えたサービスとなり、それが感動を引き起こします。
部門間の連携は、他のホテルと差別化する上でも大変重要です。ほんのちょっと勇気を出して、他部門を応援してほしいと思います。最初は、業務の流れが変わるため、現場に負荷とストレスがかかるでしょう。しかし、三翠園のお客さまのためであり、長い目で見れば自分たちのためでもありますので、そこは時間をかけて説明していきたいと思います。

花火の件では、私が道を付け、部門間の連携もやって見せましたが、トップが「やって見せる」「道を付ける」ことはとても大事だと思います。それが新しい試みなら、なおさらです。
私の強みは、現場でたくさん汗をかいてきたことだと思います。四国管財では、「これ忙しくて無理です」「現場が回りません」という声があれば、「どんなところが、どう回らないの」と聞いて、「じゃあ一緒にやってみよう」などと、現場に入って一緒に汗をかいてきました。
私がそうしたことで、経営幹部たちも、何かあれば現場に入って、一緒に寄り添ってくれました。経営幹部は、早朝の仕事、深夜の仕事、宿直の仕事、どんな仕事もいとわず社員さんに寄り添いました。経営幹部がそうしていたからこそ、部門間の垣根はなくなり、皆で「これはもっとこうしたらいいよね」などと、議論を交わせたのだと思います。

新規事業も、部門間の連携もそうですが、何もない「0」の状態から「1」をつくる仕事は、非常に負荷がかかります。向き不向きもあります。しかし、「1」から「2」、「3」とつくっていく仕事は、比較的、適性に左右されることもなく容易にできます。私はこれを「ゼロワン理論」と名付けています。この何もない0から1を生み出す、つまり「道を付ける」仕事こそ、経営者なり幹部が担うべき仕事だと思います。
「社長は何もせず、優秀な社員さんに全部任せるのが一流の社長というものだ」という話を聞くことがありますが、それは組織の規模、現状、喫緊の課題などによって大きく異なるのではないでしょうか。
現状と理想のギャップを埋めることが経営の仕事です。このことは、私のメンターであるネッツトヨタ南国の横田さんに教えていただきました。そして、私は、会社を理想に近づけるためには、経営トップが現場で汗をかくことが大事だと確信しています。
三翠園の一つのギャップは、部門間の連携です。しかし、どんなことでも方法は100万通りあります。ギャップを埋めるために、私は、いつでも現場に入り、どんなことでもしようと思っています。