ゼロワン理論(前編)
社長就任時、私の友人たちが「三翠園を本気で励ます会」を催してくれました。その1人から、先般、たくさんのアイデアをいただきました。どれも、実現したいものばかりで、うれしい応援です。
その中に、「あっ」と思ったアイデアがありました。それは、三翠園の庭園で手持ち花火を楽しむというものです。三翠園は、消防署の許可を取れば、ホテルの庭で花火師による打ち上げ花火ができる、という高知県でも数少ないホテルです。これまでも、記念事業などでは花火を打ち上げていましたが、お客さまに手持ちの花火を楽しんでいただくという発想はありませんでした。アイデアを聞いて、直感的に「これはいける」と思いました。
問題は、どうやってこのアイデアを実行するかです。社長の私が、「これやるよ」と指示してもできるでしょうが、それをするときっといろいろな人に迷惑をかけてしまいます。なぜなら、まだ私が各部門の仕事をよくわかっていないからです。
さらには、新しい挑戦ですから、組織横断的な連携が必要です。それがない状態で丸投げしたら、たとえできたとしても、ごく一部の部署しか知らないサービスにとどまってしまい、お客さまに満足していただけなかったり、結果、長続きできなかったりしてしまいます。
ここは拙速を避け、関連する全部門の人たちの意見を丁寧に聞いて、どこかの部門だけに負担がかからないようにしなければいけないと考えました。しかし、三翠園は宿泊業ですから、一堂に会して話し合いをすることができません。いつもこれがネックになります。
四国管財では、非対面でも「こういうことをしたいと思う」「いやそれはおかしい」「これもっとこうしたら」などと、活発な意見交換ができ、話はすぐにまとまります。それができたのは、価値観の共有ができていたからです。
三翠園でも、社内LANなどを使えば非対面で議論することはできるでしょう。しかし、私の努力不足のため、すべてのコミュニケーションの土台となるべき「価値観の共有」ができていませんので、今の段階で非対面の意見交換をしたらうまくいきません。
そこで、今回の手持ち花火の案件は、私が道筋をつけ、部門間の連携を担うことにしました。まずは、庭園でお客さまが手持ち花火を楽しむことが可能かどうか防火責任者に相談し、担当者から消防署に確認をしてもらって、指定した場所で行うなら問題ないという許可を取りました。
次は、どんな花火にするかです。三翠園の慣習に従えば、総務に振って、花火業者を探してもらい、花火業者に提案してもらうのですが、それはしませんでした。
総務は門外漢ゆえに時間がかかる上、総務がますます多忙になってしまうからです。すでに総務の業務は膨大になっています。
私が社長になってしたことの一つは、何でも総務に振るのではなく、まずは当該部門の社員さんが取り組んでみて、試行錯誤をして、これでいけるという段階になってから総務にバトンタッチするように流れを変えたことです。
今回の花火についても、私が、花火の卸売りもしている矢野玩具卸販売さんに出向き、企画内容を説明して、適当な花火の提案をお願いしました。
次に、矢野玩具卸販売さんからもらった花火のサンプルを宿泊営業部門に渡しました。そこからは、私は口を出さないようにしました。私がすべて考えてしまったら、実際に業務を担う人の楽しみを奪ってしまうからです。
そこまで道筋をつけてあげれば、三翠園の社員さんのポテンシャルは高いので、「あっ」という間に物事は進みます。
皆で、お客さまへのご案内、鎮火用のバケツの貸し出し、水をくむ場所や花火を楽しむ場所の説明、花火後の鎮火の確認作業まで、一連の流れを考えてくれました。「これならできるね」ということで、新企画がスタートしたのです。
(後編に続きます)