神様だらけの会社

伊那食品工業の塚越最高顧問と、伊那市で楽しいゴルフをご一緒した話は、以前ブログでご紹介しましたが、今回は、伊那食品工業さんを見学した時の感動についてお話しします。
最初に、感動したのは会社の入り口でした。傘置き場に並んでいた傘の柄が、すべてビシーッと同じ方向を向いていたのです。まるで、鶴の群れの頭のようでした。
私たちが「ひゃー」「へぇー」と驚いていると、塚越さんは「これは今日だけじゃないよ。うちはいつもこうなんだよ」と、さも当たり前のようにおっしゃいました。
トイレにも感動しました。私たちは会社のトイレを使わせていただきましたが、伊那食品工業の社員さんたちは、手を洗い、ペーパータオルで手を拭いた後、必ず、自分が使った洗面台と水栓レバー周辺をきれいに拭いていたのです。驚いたことに、たまたまその人だけがしていたのではなく、全員がそうしているのです。
目に見えない伝統や文化というものは、それを尊ぶ人たちによって受け継がれていくといいますが、伊那食品工業さんは、皆が、少しずつ努力していくことで、会社の文化を守っていることがよくわかりました。

 伊那食品工業さんは、「いい会社」を目指しており、そのために、組織を「家族」と考え、家族だからお互いに手伝う、家族だから「みんなでやる」ことを大事にしています。傘の柄も、トイレの清掃もこうした考えの表れなのでしょう。
これは社員さんだけでなく、トップに立つ塚越さんご自身も日々実践されていました。それを垣間見たエピソードがあります。
塚越さんは、伊那谷(長野県南部の天竜川に沿って南北に伸びる盆地)について、壁に掛けてある立体図で説明してくださいました。しかし、そのポイントとなる箇所に刺さっているはずのマチバリが刺さっていませんでした。塚越さんは、「ああ、これぬかっているな」と言うや否や、ご自分のボールペンを持ち出し「こうすればいいんだ」と、そのポイントをグルグルとマークし出しました。驚いた私たちを横目に、「おかしいと気づいたらすぐ行動する」「駄目なものは駄目。いいものはいい」「肩書なんか関係ない。気づいた人がすぐやる」とおっしゃいました。
関連会社の米澤酒造さんを案内してくださった時もそうでした。大変、見晴らしのいい部屋に案内してくださったのですが、日当たりが良すぎて室温が上がっていました。塚越さんは、「少し、クーラーを入れるか」と言って、机の上のリモコンを手に取りました。普通は、それで終わりにするようなことですが、塚越さんはそうしません。リモコンは、誰でもすぐに見つけられ、戻しやすい場所に置くべきだと思ったのでしょう。塚越さんは、すぐ社員さんを呼んで「リモコンの定位置はここじゃないよ。エアコンの下の壁に設置した方がいいよ」と話していました。まさに、「駄目なものは駄目、すぐやる」を実践していました。

その一方、あえてご自分で「すぐ」しないこともありました。例えば会社をよくするためのアイデアです。塚越さんはたくさんのアイデアをお持ちですが、それに関しては、社員さんに指示してやらせるということはしていませんでした。具体的にいうと社員さんとこんなやり取りをしているシーンがありました。
「社内の外国人就労者向けに外国語教室を開催してはどうだろう」
「それはいいですね」
「そうか、なら君から具体的なプランを考えて提案したらいいよ」
塚越さんは、社員さんが成長できる機会を奪わないようにしていました。それは企業理念に基づいたものでした。伊那食品工業の社員さんたちは、「幸せになるために」働いています。自分たちで考え、実行することで楽しく働けます。考えるから成長につながり、幸せな人生になっていくのだと伊那食品工業さんは考えています。ですから、「考える」部分がトップダウンにならないように、塚越さんは非常に配慮されていたのです。

今回の見学では、傘立てに始まり、すべてのものに伊那食品工業さんの考え方が宿っていることを実感しました。「神は細部に宿る」とも「真実は細部に宿る」といいますが、本当に言ったことを実践しているかどうかは、細部を見ればわかります。伊那食品工業さんは、本当に神様だらけの会社でした。

※写真はその場で即行動する塚越最高顧問