採用面接(後編)

社員さんの採用にあたって一番困ったことは、内定を出し、現場が決まり、スタッフさんやお客さまにご紹介した後になって、「すみませんが、別の仕事が決まりましたので辞退します」と言われることです。お客さまから「お宅は何をしているんだ?」と思われかねません。会社の信用に関わります。
このため、採用面接では、こうした事態を防ぐために「長く働く気があるのか」、「どこかと二股をかけていないか」なども見極める必要がありました。

実際、本人は「半年間だけ働きたい」と考えているのに、面接では「ずっと働きたいと思っています」などとウソをつく人がいます。「それなら最初に言ってよ!」と思います。
そこで、こちらも予防線を張って、「もし半年で辞めようと思っているなら、半年で辞めても困らないポジションに配属しますので、最初に言ってくださいね」などと水を向けてみます。その際、「話してくだされば、○○さんも辞めやすくなりますし、当社も助かります」と言います。
昔は、ウソをつかれないように、ひたすら「正直に話してください!」と訴えていましたが、われわれに面接力(傾聴力)がつくと、たくさん話を聴いていくなかで、話に整合性がとれていないのがわかるようになりました。
例えば、面接の時は「掃除が大好きです」などと、きれい事を言う人が多くいますが、聴いていくと掃除に興味がないことが見えてきます。そもそも、本当に掃除が大好きで入社したいという人などまずいません。このように、矛盾が見えたときは「ごめんなさいね。話のつじつまが合っていないように思うのですが、もしよかったら詳しく事情を話していただけませんか?」「なぜ、この仕事をしたいのですか?」と率直に尋ねます。その際、辞めることを前提に入社しても全く問題がないことをご説明します。
「夢コースという、辞めることを前提にした採用もありますよ。当社を辞めても全然いいので、ウソをついて辞めないでくださいね」
「仕事は幸せになるための手段ですから、もっといい仕事に行きたいと思うなら、当社は後押しします。でも、急に『明日辞めます』と言うのはやめてくださいね。引き継ぎをしていただけないと、会社は困ってしまいます」
「どこか別の会社に行きたくなったら正直に言ってください。知り合いがいたら推薦しますし、面接にもついて行ってあげますよ」
などと言います。
 ここまで言うと、結構、本当の話をしてくださるものです。「実は半年後に、夫の転勤で辞めるかもしれません」とか、「実は看護師の免許を取ろうと思っています。病院のサポート業務は、看護師と違って給料が低くて悔しいから看護師になりたいと思っています」などと話していただけます。

面接では二股をかけている人も多くいます。私は面接の際、「二股をかけているなら、そう言ってくださいね」と率直に話していました。
「私は○○さんを採用したいと思っています。しかし、以前、二股をかけていたらしく、採用した1週間後に辞められて、大変困ったことがありました。ですから、他社にも応募されているようなら、その旨、話していただけませんか? そこに落ちたら当社に入るということでも構いません。仮内定もこの場で出しますので」などと言ってあげます。このように、こちらが胸の内を話します。すると、「実は○○スーパーに行こうと思っています」などと打ち明けてくださいます。
併願していることがわかったら、その併願先を褒めるようにしました。「○○スーパーの社長は、青年会議所の後輩です。絶対にいい会社ですから、そちらにしたらいいと思いますよ」「ただし、面接では、時給や待遇ばかり聞いてはダメです。面接担当官は、時給や待遇ばかり聞く人を採用したがりません」「当社のように個人情報を聞かれることはないでしょうが、家族構成が母子家庭だとか、親戚に警察官がいるとか、自分からそういうことを打ち明けると安心していただけます。信用を重んじている会社ですから、『親戚のおじさんが警察官です』という話は積極的に言った方がいいと思います」などと、アドバイスをしてあげます。トコトン応援してあげます。
 しかし、そうすると、十中八九、当社に戻ってきてくださいます。もちろん、狙ってのことではありませんが、当社の熱意に打たれて入社を決めてくださるようです。会社の規模は小さくても、一生懸命に自分のことを思って応援してくれる会社がいいと思ってくださるのでしょう。「いろいろありましたが、やはりこちらにお世話になります」と言ってくださいます。

来春卒業の、大学生などを対象にした企業の採用面接は、政府のルールで6月1日開始となっています。しかし、実態はすでに始まっています。
三翠園でも、新卒者の採用面接シーズンを迎えます。当社の面接担当者は、若いため、面接に来る若者の気持ちがよくわかります。経験は豊富ではありませんが、聡明(そうめい)で、一生懸命です。私がしてきた経験をお話しして、どんどん成長していただきたいと思っています。