TTPはあかん
若い頃は、取引先のメーカーさんに聞いたり、業界紙を読みあさったり、講演会に参加したりして「いい会社」を見つけ、ベンチマーキングに伺ったものです。
しかし、ベンチマーキングの旅を始めた当初は、社長さんの話を聞いても「うわー、すごい!」「なんてすごいんだ」と感動したり憧れたりしただけでした。それで終わりです。
「憧れるのはやめましょう」という大谷翔平選手の言葉がありますが、感動したり憧れたりしているようでは、いつまでも一流にはなれないと思いました。そこで、次の段階は「マネ」に徹することにしたのです。TTP(徹底的にパクる)です。
ある時、知り合いが「同業者だけどユニークな経営をしている会社があるよ」と教えてくれました。山口県周南市にあるサマンサジャパンさんです。私はいても立ってもいられなくなり、アポイントを取って社長さんに会いに行きました。
社長さんは異業種から学んでいる方で、ハー・ストーリィという女性視点のマーケティングを行うコンサルティング会社を使って、経営理念、行動指針、リクルート対策などに取り組んでおられました。どこをとっても、これまでのお掃除会社とはまったく違うものでした。
私はすっかりこの会社に心酔し、何でもかんでもマネしました。というのは、社長からいただいた返信の手紙に「学ぶことは、マネすることから始まる」と書いてあったからです。それを勘違いして、マネしまくりました。求人広告の図柄から、社長の話し方、果ては社章までマネしました。数年後、「マネするにもほどがある!」と怒られ、事実上の出入り禁止状態になりました。それほど当時の私はTTPに徹していたのです。
しかし、いくらマネしてもしょせん偽物です。偽物は長続きしません。いつまでやっても本物にはなれないのです。ファッションモデルやマネキンが着ている服が、いくらかっこ良く見えても、自分には似合わないのと同じで、借り物ではダメだとわかってきました。
そこで次の段階では、いい会社さんをただマネするのではなく、自分の会社をよくするためのヒントをいただくようにしました。いわば借り物の服をそのまま着るのではなく、自分に合うようにリメークしたのです。自分でリメークするためには、どうやってその服が作られたのか、そのプロセスを知る必要がありました。
この段階になると、ベンチマーキングで聞く質問がガラッと変わりました。結果や成果から、プロセスを重視するように変わったのです。「どのような過程を経て、今の仕組みにたどり着いたのですか」「どんな問題があって、それはどう乗り越えたのですか」などと聞きました。そして、「弊社は、今、こういうことに悩んでいるのですが、御社だったらどうされますか」と、リメークのヒントも頂戴するようにしました。
この話を、当社にベンチマーキングに来られた人や社長さんにするのですが、どうしても形になった経営理念やクレドなどに目がいってしまいがちで、それらをつくるプロセスに興味を持つ方は少ないように思います。
ベンチマークでは、もう一つ伺うことがあります。それは、その企業さんがそうした取り組みをすることになった背景や風土です。
私は、ある団体に所属しており、昨年は、その全国大会に参加しました。パネルディスカッションでは、有名な会社のトップが登壇していましたが、私はその発言に非常に違和感を覚えました。原稿の棒読みをしていたのです。この方たちは、仕組みをつくった本人ではなく、仕組みができた会社のトップだったのだと思います。
土壌によって植物の適性や育ち方が違うのと同じように、企業も、背景や風土に応じた仕組みや成果物が生まれます。種をまけば芽が出るとはかぎらないのです。自社流にリメークするにあたって、その仕組みが育った環境(背景や風土)を知っておくことは大事だと思います。
そこで、ベンチマーキングでは、「これはどんな立場の、どんな人が言い出したのですか」「いつ頃始まったのですか」「当時、会社はどんな状態でしたか」というように、その会社の歴史や推進者の人間性についても伺うようにしました。
こうすることで、いい会社からの学びを生かすことができます。憧れを現実のものにすることができるのだと思います。