言ってくれてありがとう?

2023年の暮れは、ダイハツ工業株式会社の品質不正問題が世間を騒がせました。簡単に経緯をたどると、2023年4月28日、ダイハツは海外市場向け車両(4車種)の側面衝突試験の認定申請において不正行為があったことを公表しました。5月15日、ダイハツは不正行為の重要性に鑑み、事案の全容解明、真因分析及び再発防止策の実施に向けて第三者委員会を設置します。
その調査報告書が12月20日に公表されましたが、内容は深刻なものでした。それによると古くは1989年から不正が行われており、国内外含めて64車種で174件の不正が確認されました。なお、不正件数は、ダイハツがトヨタの完全子会社化になる2年前以降に増加したといいます。現在、ダイハツは国内外の全車種の出荷を停止しています。

今回の事件では、二つ気になったことがありました。一つは、事件の発覚経緯です。調査報告書を読むと、ダイハツでは2002年度から「社員の声」制度が監査部により運営されていましたが、本件問題が示唆する通報がなされた実績は見当たらず、最終的に外部機関への通報が契機となって本件は発覚しました。このことは、「社員の声」制度、さらにはダイハツの自浄作用に従業員が期待や信頼を寄せていなかったことの表れです。そのことは次のアンケート調査の回答を見ても明らかです。
「内部通報を行っても、監査部が直接事実を確認する事は無く、当該部署の部長・室長・GLに確認の連絡がいくのみで、隠ぺいされるか、通報者の犯人捜しが始まるだけです」(第三者委員会調査報告書より)
もう一つ気になったのは、この事件に関する豊田章男会長(トヨタ自動車)の発言です。会長はダイハツの滋賀工場を訪れ、従業員の前に立ち「この中に告発者がいらっしゃると思います。ほんとうに言ってくれてありがとう」と話したそうです。この発言が正しいとしたら、私は大変違和感を抱きます。「言ってくれてありがとう」ではなく、「外部通報に至るような会社経営をしてしまい、申し訳ございませんでした」と言うべきだと思うのです。というのも、本件の背景の一つに、ダイハツを完全子会社かした“トヨタの遠心力”(プレッシャー)もあったと思うからです。

 今、私が危惧していることは、今回の事件を経て、以前にも増して内部通報制度が機能しなくなることです。今回、外部通報が行われた結果、製造ラインは完全に止まってしまいました。従業員の雇用は守られると思いますが、業績の落ち込みはボーナスに影響するでしょう。
協力会社や販売店も会社始まって以来の大損害だと思います。ただでさえ新型コロナウイルスに起因する半導体不足の影響で、販売会社さんは売りたくても売る車が入ってこない時期が長く続きました。ようやくこれからという時にこの事件です。販売店さんは“怒り心頭に発する”ことでしょう。
それほど本件は、多くの人に迷惑をかける大事件なのです。豊田章男会長は「言ってくれてありがとう」と言いましたが、この先会社が苦しくなってくると「いったい誰が通報したんや」「そのせいでボーナスも落ちたやないか」などと、矛先が経営から通報者へ転じかねません。そうなると、内部告発や外部通報すると、結果、仲間に迷惑をかけることになるので、「告発はやめておこう」という風潮になりかねません。
 そうなるかならないかは経営しだいです。まずは、経営が襟を正して、従業員、取引先に謝るべきではないでしょうか。正しい経営を貫くのは非常に難しいことですが、私もダイハツ製のタンクに乗っていますので、ダイハツさんにはがんばってもらいたいと思います。
現在、乗っている車はダイハツのOEMモデル「タンク」です。これは非常に使い勝手が良く、走行距離は7万4000キロに達しました。その前の車もダイハツ「タント」でした。ちなみに、車はダイハツですが、販売会社はネッツトヨタ南国さんです。