やらない返事
かつて四国管財に入社したてのころ、上司にいろいろ提言しましたが、一切通りませんでした。ある時、システム導入について提案書を出したことがあります。しかし、受け取った上司は皆の前で「これ、せっかく出してもらったけど、全然意味ないから返しとくわ」と言って書類を突き返されました。私は、さらし者になり、周りから大笑いされました。あまりにも腹が立ったので、書類をその場で破り捨てたことを覚えています。その時につくづく思ったことは、「能力の低い上司の下で働くことほど、不幸なことはない」ということです。
私は、創業社長の息子でしたし、小学3年生の時から父の跡を継ぐと決めていましたから、「今に見てろ、絶対にいい会社にしてやる」と思ってがんばりました。その後、私は少しずつ社内で力をつけていき、システム導入も果たすことができました。現在、そのシステムは当社の品質管理の上で、なくてはならないものになっています。
さて、私の提案や意見を全く聞こうとしなかった上司には決めぜりふがありました。私が何か言うと、決まって「おいおい考えとくわ」と言ったのです。この言葉を聞いた瞬間、やりたくないことがわかりました。同じ表現でも、相手を気遣って、お断りする際に使う人もいますが、うちの上司はそのような神経を持ち合わせていません。単に「はいはい聞き流しましたよ」という悪意ある表現でした。
私は、これはひきょうな態度だと思います。会社をよくしようと思って意見した者に対して失礼です。やらないならその理由をきちんと言うべきです。私は、自分の経験から絶対うまくいかないとわかっていることについては、「こういう理由で、それはできません」とハッキリ言うようにしています。ハッキリ言い過ぎるため、印象がよくないかもしれませんが、社員さんの意見には真剣に向き合いたいと思っています。
さて、部下にも、やる気がない返事があります。それは「はい」です。言葉は「YES」ですが、意味は「NO」です。「はい」と言ってやらない理由は3パターンあります。①単純に忘れていた、②やりたくないからやらなかった、③やりたくてもできなかった、という3パターンです。②と③が問題です。
私は、社員さんに仕事を頼むときは、案件ごとに期限を決めています。その理由は、社員さんのやらない理由に、確実に対応したいからです。②は、社長が言うから仕方なく「はい」と言ったものの、やりたくないという意思表示です。この場合は、「それだったら、もう1回議論しようや」と言って、お互いに納得がいくまで話し合います。③は、できない理由を徹底的に掘り下げます。
「あの件、どうなった?」
「まだ、やっていません」
「それはどうして?」
「忙しかったからです」
「どうして忙しかったの?」
このように、「なぜ、なぜ」を繰り返します。相手を責めるためにしているのではありません。改善すべきことがそこにあるからです。なぜ忙しかったのかを聞いて、理由を分析すると、知らないところで、すごく苦労していることがたくさん見えてきます。「あ、そんな仕事があるのか。それだったら、このルールは変えないといけないね」というように、できない理由には業務改善につながるヒントが潜んでいるのです。
その意味で、社員さんのやらない返事は「ラッキーコール」といえます。やる気のない上司の返事はゴミのようなものですが、社員さんの返事はすべて宝の山だと私は思っています。