どういう人になりたいか

私は、よくぬかる方なので、車を運転する際には気をつけるようにしています。スピードを出し過ぎて事故を起こすことはないのですが、何か考え事をして、ボーっと運転している時にやってしまうことがあります。
昔は、事故を起こすと、自分で相手の家におわびに行ったり、修理状況の中間報告をしたり、車が直ったら家にお届けしたりしたものです。しかし、誰もがそうしていたかというと、必ずしもそうではありません。前職では、作業車が追突されたことがありました。その日は、作業道具を車から出せず、作業を中止して帰らざるを得ません。その時の加害者の対応は、修理こそしてもらえたものの、ぞんざいそのもので誠意もなにもあったものではありません。何日かして、おわびにみかん箱が一つ送られてきただけでした。いろんな人がいるものです。
 そういう世の中の風潮もあってか、自動車損害保険の売り方や事故対応は、昔とは様変わりしました。いつのころからか、事故対応はすべて損保会社が行うようになりました。時代の必然性なのでしょう。
 かつて、知人から聞いた話ですが、ハワイに行った時、車が歩行者をはねた現場を目撃したのですが、運転手は車を降りて最初に何をしたかというと、被害者の救助ではなく、自分の弁護士や損保会社に電話したそうです。これは20年以上前のアメリカでの話ですが、どうやら日本もその傾向に近くなってきているように思います。
だからといって、そういう風潮を悲観しているのではありません。損保会社が全部対応してくれることで、精神的な苦痛を免れたり、不当な要求を受けずに済んだりすることが実際にあるからです。
 私が大学生の時の話です。母に懇願し、出世払いということで憧れのケンとメリーのスカイラインを買ってもらい、ブイブイ乗り回していました。ある時、よそ見運転をして、前の車にコツンとぶつけてしまったことがあります。時速5キロ程度だったので、大きな事故にはならず、乗っていたおじちゃん夫婦も「かまわん、かまわん。どうせこんなボロやからもうええよ」と言ってくれたのですが、私は「いやいや、ちゃんと保険に入っていますので、きちんとさせてください」と言って保険の手続きをしました。
 それで済んだと思ったのですが、そのおじちゃん夫婦は周りの人に「それはおかしい、もっともらうべきや」とたきつけられたようで、後になって「もうちょっと慰謝料が欲しい」と言ってきたのです。うちは母子家庭で私も学生でしたから、そんな電話を受けて「どうしよう、どうしよう」と困ってしまいました。
困った末に、母は、四国管財の専務さんに相談しました。専務さんは、そういうトラブルに慣れている人だったので、「はいはい任せてください」ということになりました。
さて、おじさん夫婦が家にくる日になりました。その日、私は大阪の学校に戻っていましたので、対決の場に立ち会うことはできませんでした。おじさん夫婦が家に来てまもなく、専務さんが黒のクラウンに黒のサングラス姿で現れたそうです。その姿を見て、鼻息が荒かったご夫婦は「えーっ」と飛び上がったといいます。
話し合った結果、ちょっとだけ迷惑料が欲しいという話になり、数万円程度で決着したそうです。本当はもっと要求するつもりだったと思いますが、専務さんの姿を見て作戦変更したのでしょう。この話を聞いて、「相談できる人がいないと、いいようにされるんだなあ」と思ったものです。
次は知り合いの話です。その方は自動車事故を起こしてしまったのですが、損保会社の対応がめちゃくちゃ悪く、きちんと修理はしたのですが、相手がごねまくったのです。「この事故が原因で、10年後に車を売る際、査定が下がったらどうするんや。その分も弁償しろ」と言うのです。この話を聞いた時は、めちゃくちゃ腹が立ちました。「そんなのおかしいやん、その人が10年以内に事故を起こして、それで査定が下がるかもしれないじゃん」。こんな相手には、ああ言えば、こう言えばいいだけの話ですが、真面目なその人は、そんな手に乗ってしまい、お金を取られたようです。私は、昔から、人をだますようなひきょうなやり方は大嫌いなので、その話を聞いて非常に悔しい思いをした覚えがあります。
事故が起こると、その人の本性が現れます。普段いい人に見えても、相手に非があるとわかると、ごねてごねて面倒くさくなる人がいます。車の運転をしているだけでも、車線を譲れ、譲らんでもめる人もいます。ちょっとしたことで本性は見えてしまうものだと思います。
これって、ゴルフも同じです。最近はセルフを利用することが多くなったので、あまり見かけなくなりましたが、少し前までは、キャディーさんに当たり散らしたり、威張りまくったりする人を見かけました。こういう人は、キャディーさんだけでなく、周りの人も不愉快にします。弱い立場の人に、怒ったり威張ったりする姿は、決してかっこいいものではありません。本人にはそれがわからないようです。
私は、仕事でも何でも、アクシデントに遭ったら、人の振る舞いを見て、「こういう人になりたいか」「こういう人になりたくないか」を決めるようにしています。相手を変えることはできません。変えられるのは自分だけだからです。