アウトにさせない経営判断

経営者が経営判断を誤った場合、会社を倒産させるなど、会社に対して重大な損失を与える恐れがあります。今回は、経営者の経営判断についてお話しします。
その前に会社と経営者の関係を整理しておきましょう。会社と経営者の関係は、「委任」(会社法330条)の関係になります。そして受任者である経営者は、善良な管理者の注意を持って、委任事務を処理する義務を負っています(民法644条)。これを怠った場合、経営者はその損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。ここでいう「善良な管理者の注意」とは、判断の「過程」(合理的な程度に情報収集・調査を行っていたか)と「内容」(合理的な判断)が著しく不合理ではないことをいいます。

株式会社ベルの奥社長は、私の友人であり、先輩であり、素晴らしい経営者の1人でもあります。出会いはベンチマーキング(他社の優れた製品や経営手法を学び、それを自社に取り入れる手法)でした。奥社長は、四国管財にベンチマーキングに来てくださった際、「やりたいビルメンの道筋が見えた」とすごく喜んでいただけました。それ以来、奥社長とは親しくお付き合いをさせていただいています。
さて、奥社長は、株式会社ベルで主にビルメンテナンス事業を行っておられますが、大変勉強熱心な方で、私のメンターであるネッツトヨタ南国の横田さんからも学んでいらっしゃいます。
奥社長は、これまでにいろいろなグループ会社を設立し、さまざまな事業展開を行ってきました。日本鳩対策センター株式会社さんもその一つです。鳩対策工事代理店ネットワークを構築し、全国展開をしています。四国管財もその窓口になっています。
最近では、リハプライム株式会社さんを設立し、介護ビジネスも展開しています。この会社は、介護業界ではありえないぐらい離職者が少なく、日経スペシャル「カンブリア宮殿」(2023年8月17日放送)にも紹介され話題になりました。リハプライムさんの企業理念は「敬護」です。その意味は「お年寄りを介助して護る「介護」ではなく、人生の大先輩を敬って護る「敬護」で、大先輩を大切にして、育ててくれた「御恩」を返していきます」という素晴らしいものです。

さて、この素晴らしい経営者である奥社長は、大の釣り好きです。最初にお会いした際、「将来の夢は?」とお尋ねしたところ、「漁師」と即答されたくらいの筋金入りの釣り好きです。暇さえあれば何としても釣りに出掛けるくらいの釣り好きです。
社員さんにもなぜか釣り好きの人が多く、社内に「釣り部会」という夢を共有する部活動まであります。この「釣り部会」では、社内イベントも開催しており、先日も大きなイベントを予定していました。
前の日から、皆さんで仕掛けの準備などをして楽しみにしていたそうですが、天候が悪化してしまいました。奥社長は、ギリギリまで情報を収集して、なんとかできないか検討しましたが、最終的には「強風のため中止」と判断したそうです。
この話を聞いて、奥社長は正しい経営判断をされたのだと思いました。社内イベントである以上、もし釣りを強行して事故が起こった場合、それは経営の判断ミスであり、会社としてアウトです。奥社長はさすがだったと思います。この、アウトにさせない経営判断をする経営者こそ、私は素晴らしい経営者だと思うのです。

ここでは釣りのイベントを例に出してお話ししましたが、起業する場合や新規事業を立ち上げる場合にも同じことがいえます。
例えば、起業する人の中には、自分のビジネスに酔いしれている人が多くいます。その人は経営者として、合理的な程度に情報収集・調査して合理的な判断を下せない恐れがあります。
第三者から見れば「どうしてこの立地にそのお店を出すの?」「絶対うまくいきそうにないけど」と思うような案件であっても、当人は成功すると思い込んでいるため、たとえ第三者が反対意見を言ってくれたとしても、当人はムキになって熱く夢を語るだけです。
すると、次第に反対する人は意見を言わなくなります。そして、当人は耳の痛い話をする人から距離を置き、耳障りのいいことを言ってくれる人のところにだけ行くようになります。その結果、3年を待たずに店はつぶれます。こういうパターンをいくつも見てきました。
善管注意義務を怠った経営判断を下した瞬間に、会社は倒産に向かって走りだします。しかも、一生懸命頑張りますから、さらに経営判断を誤り、加速度的に借金を増やしてしまいます。そして、にっちもさっちも行かなくなった時に、ようやく経営判断の誤りに気づきます。
経営者は、念力や超能力で経営判断を下しているわけではありません。事前に得た情報を分析して、「いける」「いけない」を判断します。つまり、入力する情報が誤っていたら、結果はアウトにしかならないということです。いろいろな情報を入力する必要がここにあります。
経営者は、自分と違う意見を持つ人の話ほど、謙虚に耳を傾けて、集めた情報を客観的に分析し、冷静に判断することが大事だと思うのです。