Q&Aセクハラ対策のお悩み

今回の“あるあるお悩み”は「職場のセクシュアルハラスメント」です。
Q.私は、管理職をしていますが、先日、部下の女性社員から「ある人からセクハラされて困っています」という相談を受けました。「一方聞いて沙汰するな」といいますが、会社としてこの問題にどう対処すべきでしょうか。
A.職場におけるセクシュアルハラスメントについては、これまでも男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により、事業主に防止対策を講じることが義務づけられていましたが、2020年6月1日、「改正労働施策総合推進法」が施行されたことによって、セクハラ等の防止対策はいっそう強化されています。
 職場におけるセクシュアルハラスメントとは、「職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること」(厚生労働省リーフレット)をいいます。
 会社がセクハラ対策を怠ると、使用者責任を問われ、適切な措置を怠ったことに対する損害賠償責任も追及されかねません。当然、会社は社会的信用を失うことにもなります。あなたが管理職として認識しておかなければいけないことは、会社にはセクハラ防止対策を講じる義務があるということです。
 
さて、ここからは今回のお悩みについて、具体的にどうしたらいいのか考えてみます。セクハラやパワハラの相談に向き合う際に大切なことは「相談者の気持ちに寄り添い、相談者を守る」ことです。
相談者は、セクハラした加害者から報復されることを一番恐れています。ですから、相談を受けた人は、被害者を守ることを最優先に考えないといけないのです。“不用意に”加害者を呼び出して事実関係を問いただすようなことをすると、相談者に「あんた会社に言ったやろ」「よくも言ったな」と迫り、なんらかの報復をしかねません。相談者はこれを恐れているのです。セクハラが表面化しない大きな理由がここにあります。とはいえ、会社にはセクハラ防止対策を講じる義務があります。
ではどうしたらいいのでしょうか。相談者にどうしてほしいか聞くと、半分以上の方は「何もしないでください。こうして話を聞いてもらうだけで心が落ち着きました」と言います。しかし、何もしないでくださいと言われて本当に何もしなかったら、それこそ何も解決しません。そのままにしておくと相談者はかなりの確率で会社を辞めてしまいます。いくら本人が望んだからといっても、加害者を放置していたら他の社員に示しがつかず、社内のモラルとモチベーションも低下します。
相談者から「私の名前は出さないでください、さりげなくセクハラを注意してください」と言われることもあります。私も、それに応じて社内報にセクハラは犯罪であることを記載したり、研修や朝礼等の場を使って、加害者を含めた全員に「こういう行為はしてはいけません」などと説明したりしたことがありますが、ハッキリ言ってあまり効果がありませんでした。なぜなら大半の人は悪ふざけ程度に考えており、罪の意識がほとんどないからです。ですから、研修などでセクハラが犯罪であることを話しても、人ごととしてとらえられてしまい、全くこちらの意図が伝わりません。当然、セクハラもなくなりません。
とどのつまり、加害者本人にセクハラを止めるように注意するしかないのです。とはいえ、絶対に被害者は守らなければいけません。問題はどう加害者に言うかです。
被害者の名前を出していいなら、ことは単純です。加害者を呼び出して、「あなたが○○さんにやっていることはセクハラです。セクハラは犯罪です。これ以上続けるとあなたは懲戒の対象になり、社会的な立場を失いかねません。直ちにセクハラ行為を止めてください」「会社にはセクハラ対策として防止措置を講じる義務があります」「あなたに言い分があればお聞きしますが、本人からそういう相談があったことは事実です」と伝えます。
デリケートで難しい対応が必要となるのは、「私の名前は絶対に相手に言わないでください」と言われた場合です。ストレートに「あなたからセクハラを受けたという相談がありました」と問いただせば、「そんなことをした覚えはない」勘違いじゃないのか」「そんなことを言ったのは誰や」と言い出すでしょう。周りに対して疑心暗鬼になり、犯人捜しも始まります。
個人攻撃につながらないようにすることがポイントです。例えば、「大変申し上げにくいのですが、あなたの性差別的な発言、飲食にしつこく誘う行為、性的な冗談、やたらと肩などを触ってくる行為によって、働く意欲が低下したり心身の不調を感じたりした人からの相談が複数件総務部にありました。もし心当たりがあるようでしたら、それはセクハラであり犯罪行為ですから直ちに止めてください」と言います。
もし、「自分には心当たりがない」ということなら、その人にも人権がありますので、第三者委員会の設置を求めて、徹底的に調査・検証することができる旨を説明します。その際、「第三者委員会で、セクハラの事実が確認された場合は、厳正に処罰いたしますが、よろしいですね」と念を押します。ここまで言えば、良心に恥じる言動をしている人は謝罪するものです。

セクハラ防止は、事業主・労働者の責務です。セクハラは、当事者のみならず会社組織にも多大な影響を与える経営問題であり、迅速な対応が必要であることを覚えておいてください。