退職者満足度
今から21年前、前職の四国管財では、日本経営品向上プログラムに思いっきり取り組んだ時期がありました。日本経営品質向上プログラムとは、「理想的な姿の実現に必要となる組織能力を向上させるプロセス、および社員一人ひとりの能力と意欲を向上させるプロセスについてアセスメントを行う」と示しています。そのアセスメント(評価)では、「組織の能力向上の具体的な取り組みとして、社員満足要因および社員満足度をどのように把握しているのか」について以下のように求めています。
・ 社員満足要因および社員満足度の把握方法
・ 満足度の客観性を担保する方法
・ 把握した満足度の結果の活用方法
私は、このアセスメント基準をクリアするために、当初、社員さんに対して、「会社に満足していますか?」「満足していませんか?」という、一番やってはいけない、しょうもない質問をしていました。しかも毎月。その結果を持って、客観的に社員満足度が高い会社であることを示そうとしたのです。
しかし、毎月アンケートを繰り返していくうちに、次第に、前述のような閉ざされた質問(クローズドクエスチョン)では、社員満足なんかわかるはずがないということがわかってきました。
クローズドクエスチョンとは、回答が「はい」か「いいえ」に限定される質問をいいます。それに対して、オープンクエスチョンとは、相手が自由に返答できる質問をいいます。会社がクローズドクエスチョンのアンケートを採れば、通常、社員さんは社長に忖度(そんたく)して不満なんか言わないものです。それがわかっていませんでした。
「社員アンケートではなく、何か別のやり方で社員満足度を数値化できないものか」。そのようなことを悶々(もんもん)と考えていた時、当時、一緒に日本経営品質賞を受賞されたネッツトヨタ南国の横田社長(当時)から大きなヒントを得ました。
横田さんは、「お客さまが感動しているか、していないかということも数値化できるよ」と言いました。「えっ、どうやって数値化するんですか」と聞くと、「例えば、お客さまと営業担当者がお話ししている時に、お客さまの笑顔が何回出たかをカウントして、今回は10スマイルだったら、次回は20スマイルを目指すというように、自分たちで指標をつくったらいいんだよ」というお話をしてくださいました。
このヒントを基に、あれやこれやと考えてみました。すると、「クレームがいいのではないか」「社員さんが報告してくれたクレームの件数は社員満足の指標になるのではないか」と思い至りました。
クレームは、本人が報告しなければわからないものも多くあります。それをわざわざ会社に報告してくれたということは、会社を信用し、会社に満足している証しではないかと考えたのです。
なぜなら、社員さんに「叱られない」「責められない」「責任を取らされない」と思ってもらえているからこそ、ありのままに報告してくれたからです。つまり「心理的安全性」が担保されているということです。安心して働けるということは、何よりも社員満足につながるのではないかと思いました。
さらに、社員さんが「知り合いに紹介したい」「子どもに紹介したい」「親に紹介したい」など、会社を身内や知人に紹介してくれることも、社員さんが会社に満足してくれている証しではないかと考えました。大事な人を紹介したいと言ってくれる社員さんは間違いなく、会社に満足している社員さんだからです。ですから、社員さんからの紹介率というのも満足度を表す指標になると考えました。
また、社員さんの退職の仕方も満足度を推し量る指標になるのではないかと思いました。例えば、会社に対して満足していた社員さんは、「私は、3カ月後に、夢だった○○の仕事に就けることになりましたので退職させてください。お世話になりました。引き継ぎはしっかりしておきますのでよろしくお願いします」などと、会社に対して満足してくれていた人は、総じて、早めに退職の連絡をしてくれますし、最後まで責任を持って仕事をしていただけます。このようなパターンは一番ありがたい辞め方です。もちろん、末永くお仕事をしていただけたらうれしいのですが、夢があったり、やりたいことが見つかったりする人もいます。スキルアップに挑戦する人もいるでしょう。当社はそういう人を応援する会社ですから、退職する人は喜んで送り出しました。
反対に、会社に対して不満を抱いていた社員さんは、突然「明日辞めます」と言ったり、自分しかわからないことを引き継がなかったりします。中には、会社が連絡しても、音信不通の人もいます。こういう人は、間違いなく、会社に不満足を抱いていた人です。
では、会社に不満足を抱いて辞めていく社員さんに対して、私がどう対応したかというと、ひと言でいうなら「迷惑をかけられよう」と決め、そのように行動しました。
会社に不満足を抱いていた社員さんは、何とか一矢報いたいと思っています。そうでもしないと留飲が下がりません。そうであるなら、せめて不満の思いを最後にぶつけてもらって、気持ちよく新たな出発ができるようにしてあげたいと思ったのです。
ですから、突然、退職を切り出された時には、たとえ困らなかったとしても「えー、突然そんな事を言われても困ります」などと、その方の怒りの感情を受け止めてあげるようにしました。怒りや恨みを持って辞めたら、後味が悪く、双方にとって幸せにつながりません。会社は社員さんを幸せにするためにあります。最後にできることは、社員さんの思いをぶつけてもらうことぐらいです。ですから、あえて、「迷惑をかけられよう」と思ったのです。
このように、社員さんの辞め方ひとつを取っても、社員満足の指標になることを実感しました。