少年の野球離れ

阪神タイガースの熱狂的なファン(私も含む)にとって、今年は久しぶりに高揚感を味わう日々が続いています。
私は、阪神タイガースの前監督の矢野燿大(やの あきひろ)氏と、メンターが同じ福島正伸先生であるというご縁があり、数年前に、一緒に学ぶ機会を得ました。そこでは、彼に予祝インタビュー(勝利したことを想定した優勝インタビュー)をさせていただき、いろいろお考えを伺うことができました。
彼は、「野球は苦しくやらなくてもいい」「子どものように楽しむこと」「遊び心が大事」と考え、「楽しむこと、笑うことが結果につながる」と信じて、目先の数字や結果にこだわりませんでした。
彼は、選手が引退した後に幸せを感じられるかとか、自分たちの試合を見てもらうことで子どもたちに夢を与えられるか、ということも重視していました。彼が選手たちによく言っていたのは、「昨日の試合は、子どもたちに見せられるんか?」「子どもたちが見て元気が出るような試合をしようぜ!」という言葉でした。
こうした価値観は、スポーツ関係にとどまらず、たくさんの企業家やコンサルタントとお付き合いがあったことに起因していたのだと思います。

近年、子どもの野球離れが進んでいます。主な原因は一言で言うなら指導者の能力不足だと思います。サッカー界は日本サッカー協会の参加の下、指導者のライセンス制度が確立されていますが、野球界はこの点において遅れており、2021年に野球界初となる共通資格制度「公認野球指導者資格」が設けられたばかりです。これによって、ようやく「暴力・暴言・ハラスメントを用いての指導を行わないこと」が指導者に義務づけられたのです。
私は元野球少年です。私が少年野球に没頭していた頃は、野球マンガ『巨人の星』が大ヒットした時代であり、スポーツは根性でした。勝利至上主義で、過度な練習と罵声や怒声、果ては鉄拳制裁も珍しくありませんでした。

しかし、世は千変万化しました。先般のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では、大谷翔平選手とともに、彼を育てた栗山英樹監督の采配が脚光を浴びました。日本の選手たちは、笑顔で、明るく、野球を心から楽しんでいるようだったからです。
今は令和の時代です。旧態依然とした昭和的な指導によって子どもたちが野球嫌いになるのは非常にもったいないことです。
矢野元監督は、「野球を通じて子どもたちを笑顔にすることが夢」だとおっしゃいました。子どもたちには、数字や結果にこだわらず、まずは野球を存分に楽しんでもらいたいものです。そのための環境をつくるのは、元野球少年であるわれわれ大人の役割だと思います。