夢のカクテル

先日、また夢が一つかないました。私は三翠園の社長就任が決まった時から、ホテル業について一から勉強するとともに、いい会社にするための夢やアイデアをたくさん準備してきました。
しかし、いざ就任してみると、急いでカイゼンしなければいけないことが山積しており、加えて現場社員さんからの意見や要望は最優先で応えなければならず、自分の夢やアイデアは後回しになっていました。
社長就任から1年がたちましたが、この度、ようやく一つの夢をかなえることができました。それは何かというと、三翠園のオリジナルカクテルを作ることです。
今から38年前、私がシンガポールに渡航した時のことです。「シンガポールに行くんだったら、シンガポール・スリングというカクテルを飲んできたらいいよ」と多くの友人・知人から勧められました。そこで、シンガポールに着くと、すぐにお目当てのカクテルを求めて「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」に向かいました。シンガポール・スリングというカクテルは、ラッフルズのホームページによると、1915年にラッフルズのバーテンダー「Ngiam Tong Boon(ンギアムトンブーン)」が考案したもので、主にジンベースのカクテルです。
私がラッフルズホテルに行くと、広いお庭でたくさんの方が楽しそうに歓談していました。あたかもガーデンパーティーのようでした。テーブルの上には、パンチボウルのようにあらかじめ作っておいたシンガポール・スリングが大きな容器に入っており、カクテルグラスに移す際、パイナップルなどのフルーツで飾り付けをして、来客たちに振る舞っていました。私も、一杯飲んでみたのですが、日本ではあまりなじみのない濃い味でした。しかし、エキゾチックなシンガポールにはふさわしいドリンクだと思いました。
その時、ふと「三翠園さんのお庭で、このようなカクテルパーティーを催したらお客さまに喜んでいただけるのではないか」と思いつきました。当時、私は四国管財に入社して間もないころだったと思います。三翠園さんは父の代から懇意にしていただいているお取引先でした。なんとかお役に立ちたいという思いから、そんなことを考えついたのです。
帰国後、すぐに三翠園の社長さんや担当者さんにラッフルズ・ホテル・シンガポールで見たお庭での風景をお話しして、「こういうカクテルを作ってみたらどうですか?」と歴代の社長さんに言ってみたのですが、かなうことはありませんでした。
私が三翠園の社長に内定した時、真っ先に思いついたのはこのことでした。「三翠園のオリジナルカクテルを作ろう」「絶対に実現してみせる」と思いました。とはいえ、中澤スペシャルのようなものを作っても単なる自己満足に終わってしまいます。どうせ作るなら、シンガポール・スリングのように、わざわざ遠方から飲みに来ていただけるような価値のあるカクテルを作りたいと思いました。
ありがたいことに、高知県には高橋直美(たかはしなおみ)さんという世界一のバーテンダーさんがおられます。彼女は、2013年8月20日、チェコ・プラハで開催された「I.B.A.ワールドカクテルチャンピオンシップ2013」のビフォア・ディナー・カクテル部門で見事世界一の栄冠を手にされた方で、日本人女性としては初の快挙を成し遂げた方です。(現在でも日本で2名しかいません)そのようなすごい方のご実家は、なんと私の家の隣でした。なんたる偶然でしょうか。
高橋さんのご実家には、ご両親が今もお住まいですが、直美さんとは懇意にしているわけでもなく、面識はほとんどありません。私がいきなり伺って、「よろしくお願いします」というわけにもいきません。
ふと、同級生の顔が思い浮かびました。私の中学校の同級生に、「D.A」という店名のショットバーを40年近く経営している人がいます。彼は、カリスマ的資質を持つマスターとして、バーの世界ではちょっと有名人です。
この業界で顔が広い彼に相談したところ、あっという間に高橋さんに連絡を取ってくださいました。私は、高橋さんに「ラッフルズ・ホテル・シンガポールのシンガポール・スリングのようなカクテルを作り、それを三翠園のお庭で多くの人に楽しんでもらいたい」「高知といったらあのカクテル、と観光客に言ってもらえるようなカクテルを作りたい」「コロナ禍でホテル業界は大変に疲弊しています。だからこそホテルで働く社員さんたちが元気になるような、また誇りに思えるようなものを作りたい」「そのカクテルは三翠園が独占するのではなく、希望する県内のバーなどにレシピを提供して、高知を代表するカクテルに育てていきたい」と熱く、熱く訴えました。
うれしいことに、私のつたない思いは高橋さんの心に届き、この度、素晴らしいカクテルが誕生することとなりました。その模様は、先日なんと各局で報道していただけました。
今、三翠園ではメニュー化の準備を進めており、年内にはご提供できるようにいたします。高知の地酒とメロンリキュールを合わせたカクテルなど、高知愛にあふれた三つのオリジナルカクテルをぜひ飲みにいらしてください。