社長夢塾の開講
「夢実現コース」で採用される人が増えてきたある日、身体の小さな女性が入社しました。彼女も「夢実現コース」です。牧場経営をするのが夢でした。
珍しい名字だったことから、子どものころ、よくいじめられたそうです。守ってくれるはずの先生にもいじめられ、心に深い傷を負っていました。その彼女の心を癒やしてくれたのが馬でした。馬は人を差別せずに受け入れてくれたそうです。ですから、彼女は、馬と一緒に生活する牧場経営をしたいと思ったのです。
当時、私は、「夢実現コース」の人たちを対象に、「社長夢塾」という寺子屋を月1回開講していました。夢というものは漠然としたものです。ただ働いているだけでは、時間とともに夢に向かって突き進む熱意が冷め、当社を辞めたいという意識が薄れて、会社の思うつぼになってしまいます。それでは、本人にとって「夢実現コース」で入社した意味がありません。しっかり夢をかなえて、当社を巣立ってもらわないといけません。そこで、「社長夢塾」を開講することにしました。1年目の人は強制参加です。2年目からは自由参加になります。
塾では、私が塾長兼講師となり、福島正伸先生に習ったメンタリングや、「夢ドリームプラン・プレゼンテーション」(大人が夢を語るプレゼンテーション大会)の支援会のようなことをしました。その人の夢をかなえるために自分は何ができるのか、どうしたらその人が一歩を踏み出せるのか、皆で考えて相互支援します。それを、会社が弁当を支給して、残業代を払って実施していました。
会社の利益に相反することに、なぜ弁当と残業代まで支給するのか疑問に思われるかもしれませんが、若い人に、いきいき生産性の高い仕事をしてもらったら、会社としてもハッピーです。輝いている社員さんの姿は、お客さまの感動を呼び、顧客満足も高まります。時には仕事の受注につながることもあります。当社は営業をしませんが、その代わりに輝いている社員さんの姿が広告宣伝になっています。
さて、私は塾長として「夢はかなう」「諦めない限り必ず夢はかなう」「やり方は百万通りある」と言い続けていましたが、牧場経営は門外漢だったため、その社員さんにどんなアドバイスをしたらいいのか、正直、悩んでいました。
しかし、本人は、私の悩みをよそに、どんどん一人で行動していきました。彼女は決して諦めません。そして3年がたったある日、ついに、彼女はある牧場に正式採用されたのです。
こうして彼女は、当社を卒業し、その牧場で働き始めました。住み込み勤務でした。ところが、数日後、彼女から思わぬメールがきました。
「ちょっとやばいです。説明された勤務条件とまったく違います。困っています」
「えー、何それ? すぐ助けに行くよ。僕がそっちへ奪還しに行こうか?」
「いや、自分できちんと話して辞めてきますから大丈夫です」
こうして、彼女はまた当社に戻ってきました。当社で捲土(けんど)重来を期することとなったのです。行動力のある人で、「できることをする」と言って、独学で馬のひづめを付ける勉強をしたり、牧場経営を勉強しに県外に足を運んだりしていました。
そうこうしているうちに、福島県の南相馬市で、ステキな男性と出会いました。彼からは「大きな畑もあるから、そこに牧場をつくったらどう?」と言われ、話がトントン拍子に進みました。
私も、彼に会わせていただいたのですが、本当にステキな男性でした。2人は結婚して、双子のお子さんが生まれました。もちろん、敷地内には牧場があります。彼女のフェイスブックには、お子さんと馬の写真がアップされています。
私は、まだ1度も訪れたことがありませんが、南相馬市には、千有余年の歴史がある「相馬野馬追」という祭りがあるそうです。なんでも平将門が下総国(千葉県北西部)に野馬を放ち、敵兵に見立てて軍事訓練を行ったのが始まりだとか。出陣式では、武者姿の人がほら貝を吹くのですが、ご主人もその1人だそうです。ぜひ一度、南相馬市へ行って、その勇猛な祭りを見たいと思っています。
彼女の素敵なストーリーは高知新聞さんで大々的に一面で紹介もされました。