面接は誰のため?
私は、就職面接の際、いつも学生さんに「これは当社のための面接ではありません。あなたのための面接ですよ」などと話すようにしています。
先般の「令和4年度新規大卒等就職フェア」では、私もブースに入って学生さんと向き合いました。その際も、「もしホテル業界に入りたければ、いろいろ素晴らしい旅館やホテルさんがあるから紹介してあげるよ」「もし、まだ自分が何をしたいのかわからないなら、知り合いの素晴らしい会社がこの会場にきているから紹介してあげようか」「まずはいろいろな会社の話を聞いてみたらどうかな」などと話しました。
学生さんの面接においては、何よりも「この仕事は私に向いている」「こういう仕事がしたいなあ」などと、仕事の適性について考えてもらうことが大事だと思っています。ですから、たとえ当社の面接に来てくれた人でも、別にもっと向いている会社があると思ったら、ためらうことなくそちらを勧めます。
こう言うと、「自社の面接なのに、他社を勧めたり、他業界を勧めたりしていたら、何のための面接かわからないじゃないか」などと思う人もいるでしょう。しかし、美辞麗句を並べ立てて入社してもらっても、仕事をしていくうちに「これは自分がやりたかったことじゃない」と気づいて会社を辞めてしまったら、お互いにとって不幸だと思います。
これは十数年前、四国管財での話です。当社には、キャリアカウンセラーの資格をもった社員さんがいました。その社員さんが採用面接をした学生さんの中に気になる人がいました。その女性は実に優秀で、就職するならぜひ当社にきてもらいたいと思うような人でした。
しかし、掘り下げて聞いてみると、本当は就職したいと思っていないことがわかりました。家の事情に遠慮して、就職しなければいけないと思って面接にきていたのです。
彼女には夢がありました。パティシエの資格を取ってパティシエの仕事をすることです。面接をした社員さんは、「そういう夢があるなら、あと2年間、専門学校にいかせてもらえるように親御さんにお願いしてみたら?」と、その人を説得したそうです。
この件でいちばん困惑したのは、学校で就職を指導している先生でした。その先生は、「いやいや、もう就職することに決まっているのに、いまさら勝手に変更されても困る」と言うのです。いったい誰の顔を見て、就職指導をしているのか疑問に思ってしまうような話でした。就職指導の目的は、本来、生徒が幸せになるための支援であるはずです。高卒で就職するのか、進学するのか、それは本人が決めることです。
私は、この生徒の親御さんに、面接でのやり取りを話し、「本人の夢をかなえるために、なんとか進学させてあげられませんか」と相談しました。
こうして、その生徒さんは専門学校に進みました。非常に優秀な学生さんでしたから、特待生になって学費もだいぶ助かったと聞きました。
その後、彼女は念願のパティシエの仕事に就くことができました。ところが、待っていたのは、なかなか大変な労働環境でした。それでも彼女は、おいしいデザートで人を笑顔にできるパティシエの仕事を懸命に続けました。しかし、心身共に耐えられなくなってしまい、ついにパティシエを辞める決意をしたそうです。
失意の彼女は、当社の社員さんを頼ってくれました。かつて彼女が面接を受けた際、親身になって相談に乗ったキャリアカウンセラーの社員さんです。
社員さんが相談に乗ると、彼女は「人を笑顔にするウエディング関係の仕事に就きたい」と言いました。社員さんは、彼女が希望する会社に採用されるように、全面的に支援したそうです。それは小手先の面接テクニックを教えるという支援ではなく、彼女のいいところを引き出して、面接当日、彼女の魅力が100%アピールできるようにする支援でした。その結果、見事に、彼女は採用が決まりました。
キャリアカウンセラーの仕事は、キャリアカウンセリングを通して、その人にとっての「幸せな人生」と「キャリア」を描く支援をすることです。端的にいうと、適職を見いだし、その夢がかなうように導いてあげることです。それは、民間企業に所属していようが、大学や行政機関で働いていようが同じです。
就職面接で学生さんと向き合う際に思い出すのは、あの時の社員さんの姿勢です。これは誰のための就職面接なのか。会社のための面接なのか、その人のための面接なのか。いつも学生さんと向き合う時は、この原点に立ち返るようにしています。