全員えこひいき
私が社長になりたいと思ったのは小学3年生の時です。父の姿がカッコよくて、自分も社長になろうと思ったのです。その父は、私が中学2年生の時、突然、スキルス胃がんで入院し、わずか1カ月ほどで亡くなってしまいました。
会社は母が引き継ぎました。生前、父から「自分に万一のときは、会社と子どもたちを守ってほしい」と頼まれていたからです。しかし、母には障がいがあり、つえなしでは生活できません。私は、「母を楽にしてあげたい」という思いもあり、一日も早く四国管財で働きたいと思いました。
高校3年生になると、休みの間、アルバイトとして自社で働くようになります。大学生の時、私にとってワクワクする出来事がありました。アルバイトで、現場の応援に行ったのですが、お掃除をしている人たちから、「大学生なのにお掃除の仕事なんかして、本当にかわいそうだね」とか「本当に情けないね」などと、同情され、嘆かれたのです。
「僕は、人から嘆かれるような会社の社長になるのか!」。そう思うと、ますますやる気になりました。今は、四国管財で働いていることを、隠したり、恥ずかしいと思ったりする人は一人もいないと思いますが、当時は、そう思われていました。
大学を卒業するとともに、私は、熱い志を持って自社に入社しました。ところが、私を待っていたのは「冷や水」でした。皆、私が社長の息子であることを知っていますので、私は周りから色眼鏡で見られたのです。えこひいきされていると勘違いしたのでしょう。ねたまれたり、嫌がらせを受けたりしました。何をやっても、認めてもらえません。人の2倍やっても当たり前でした。
それでも、現場で一生懸命に仕事をしていると、お客さまから「若いのに頑張っているね」と褒めていただくことがあります。すると、毎回のように「この人は社長の息子ですから」などと、私の立場をばらす人がいました。
それを聞いたお客さまは、急によそよそしい態度を取るようになります。なかには、大学出たての若造に敬語を使う人までいました。それまでは、本音で耳の痛い話をしてくれたり、本気で叱ってくれたり、仲良くしてくれたりしたのに、多くの人が私と一線を画しました。
「どうして相手の立場によって態度を変えるんだろう?」。私はとても悔しくて、残念な思いをしました。
こうした経験を経て、心に決めたことがあります。それは、「相手の年齢や立場や肩書などによって、自分の態度を変えないこと」そして「偏見を持って相手を見たり、えこひいきしたりせず、どんな人にも同じ態度を取ること」です。
えこひいきに関して、印象に残るエピソードがあります。1人の新人さんが四国管財に入社しました。周りの人は興味本位から、入社のいきさつや、待遇などについて根掘り葉掘り聞きました。きっと、聞いた人は会社に何か不満があったのだと思います。その時は、それに気づきませんでした。
それはさておき、しつこく聞かれた新人さんは、悪気なく、「私の母が社長の知り合いですから、えこひいきしてもらっているんだと思います」と言ってしまったのです。たちまち大炎上です。「社長はえこひいきをするんだ」と言われて、その現場は騒然としました。
もちろん、人一倍、偏見やえこひいきが嫌いな私が、えこひいきなどするはずがありません。そんなことをしたら、その人はいちいち揚げ足を取られることになり、つらい思いをするのが目に見えてますから絶対にしません。
私は、炎上主さんに「きちんと釈明をしたいから、皆に話をさせてもらいたい」と言いました。しかし、かたくなに私の申し出を断りました。この一件は、「人のうわさも七十五日」で、自然に立ち消えとなりました。
後になって、冷静に考えてみると、この話は、とてもうれしいことだと気づきました。私がえこひいきをしていないのに、社員さんは勝手に「えこひいきしてもらっている」と勘違いしたのです。それほど「自分は大事にされている」と社員さんが感じているということです。こんなうれしいことはありません。
この時に大切なことに気づきました。全員をえこひいきすればいいんです。
「私なんかにここまでしていただいて」
「いやいや、皆さんにもしていますよ」
「えー、そんなことないです。私だけ特別扱いしないでください」
このような会話が出るくらい、全員をえこひいきすればいいことを確信しました。「社員さんを調子に乗せたら、図に乗るから、おだてない方がいい」という人もいますが、私はそうは思いません。全員をえこひいきして、おだてて、気持ちよく調子に乗って働いてもらえれば、本人はもちろん、お客さまも会社も大喜びです。おだてて、調子に乗せて、図に乗ったところに「冷や水」を浴びせるからよくないのだと思います。社員さんには、どんどん、気持ちよく図に乗ってもらいたいですね。
我が三翠園でも面談した人はえこひいきされているという声をききました。当然面談しようがしないが全く関係ないのですが、解決は時間の問題だと自信があります。
※写真は二度と見れないツインタワー