史上最強の目覚まし時計
クレームを起こしてしまったり、ミスをしてしまったり、遅刻をしてしまったりしたときに、社員さんはよく「以後気をつけます」とか「もう絶対に次は遅刻しないようにします」とか「肝に銘じてがんばります」などと言います。
しかし、こういう言葉を社員さんに言わせてしまった時点で、何も解決しなくなります。そのことは、四国管財で5000件以上のクレームに向き合ってきたので、よくわかります。
遅刻をした人は「もう二度と遅刻はしません」と言いますが、私は「いや、そんな約束はせんでいいよ」「あなただって遅刻したいわけではないだろうし、気持ちだけ遅刻しないようにしても、絶対にまた遅刻してしまうから」と言っていました。
そういう人は、2回、3回と遅刻を繰り返すからです。もし、「遅刻しません」という約束を本人にさせてしまったら、本人は約束を破ったことになりますので、責任を感じて会社に来られなくなったり、退職してしまったりと、本人にとっても会社にとっても不幸な結果になります。
ですから、私は絶対に「遅刻しません」という約束をさせませんでした。私がしたことは、どういう原因で遅刻したのかを聞いて、それに対してのアドバイスでした。
例えば、「目覚まし時計はセットするけど鳴っても起きなかった」という人がいました。その人には「それは目覚まし時計のレベルが低いんだね。だったらもっと大きな音が出る目覚まし時計に替えよう」とアドバイスしました。しかし、大音量の目覚まし時計に替えてもその人は遅刻しました。
「今度の原因は何だい?」
「目覚まし時計をセットするのを忘れていました」
「わかった。一つだからそうなったんだね。なら二つ目覚まし時計を置くようにしよう」
しかし、その人はまた遅刻しました。
「目覚まし時計は二つ置いたんだよね。今度の原因はなんだい?」
「それが二つ置いたのですが、一つ鳴らなかったんです」
「そうか、なら目覚まし時計を三つ置くようにしよう」
このように、どうしたら目覚められるのかを一緒に考えてあげます。これまでの最高記録は目覚まし時計を六つ置いた人です。それでも、起きられない人もいます。その場合は、別の解決方法を考えます。
ただし、気をつけなければいけないことがあります。それは、どうしても起きられない原因が何かある場合です。本人の話をよく聞いてみると、プライベートの心配事や、もめ事や、介護などがあって、夜遅くまで寝られない人もいます。そういう場合は、その問題を一緒に解決してあげない限り遅刻はなくなりません。
これは、遅刻に限らず、ヒューマン・エラー全般にもいえることです。特にヒューマン・エラーは、本人はしたくないのにしてしまったのですから、何かミスを引き起こした原因があるはずです。管理職がすべきことは、ミスをした本人を責めることでも、原因追及でもなく、原因を取り除くことだと思います。
今は、業種が変わって、私はホテル業に身を置いていますが、ヒューマン・エラーへの対応はまったく変わりません。社員さんは、私にミスを報告する際、何も責めていないのに勝手に謝罪しようとします。私はそのつど、「そうじゃないよ。大事なことは再発防止なんだ。だから今、いきさつを聞いているのであって、責めているんじゃないよ」と説明してあげます。すると「ええっ!」とびっくりされます。そういう文化がなかったのでしょう。
余談ですが、私は最近、史上最強の目覚まし時計と巡り合いました。この目覚まし時計なら絶対に寝過ごさないというぐらいの史上最強さです。しかし、先日、この目覚まし時計のスイッチを入れ忘れてしまい、ゴルフに危うく遅れるところでした。どうやら、私には史上最強が二つ要るようです。