目指す姿をどう伝えるか
高知に、有限会社蔵多堂(くらたどう)さんが経営する「喰多朗(くうたろう)」という居酒屋があります。本店と南国店がありますが、どちらの店の社員さん(従業員)も、誰彼なしに、笑顔がステキで感じがいいのです。
ここ1年、私は「喰多朗」さんをプライベートや仕事でよく利用しています。コロナ禍のなか、いろいろ無理なお願いをさせてもらっていますが、どの社員さんも自ら考え、自発的にテキパキ対応してくれます。「喰多朗」さんを利用する度に、「エンパワーメント(能力を引き出し、自発的な行動を促す)された素晴らしい組織だなあ」と感じ入ります。「喰多朗」さんの人気は、お料理のおいしさもさることながら、社員さんの自発的な「おもてなし」のレベルが尋常ではないことにあるのだと思います。
私も、人や組織をエンパワーメントしたいのですが、自分の表現力のなさもあって、いくら口頭で説明しても、うまくエンパワーメントの素晴らしさを伝えられません。目指す姿が伝えられなければ、社員さんはどこへ向かっていったらいいのかピンときません。そのような時は、目指す姿を見てもらうことにしています。
それを教えてくださったのは、一人の経営者でした。
今から20年ほど前、高知県で有数の量販店「サニーマート」を経営されていた中村会長に講演をしていただく機会を得ました。この方は、めったに講演をされない方でしたが、当時、ご子息が高知青年会議所のメンバーだったご縁もあって、引き受けてくださいました。
この講演は、私にとってとても貴重な体験となりました。私が特に印象に残ったのは、「当社には目標にしているところがあります」というお話です。
サニーマートさんは「美観」を大切にしているのですが、「いくら経営者が『きれいにしなさい』と口を酸っぱくして言っても、社員さんにしてみればどのくらいきれいにしたらいいのかわからないので、やりようがない」といいます。
そこで会長は、「高知の大橋通りにある『中華そば 丸福』さんの厨房(ちゅうぼう)のようにきれいにしよう」と、社員さんに伝えたといいます。「百聞は一見にしかず」といいますが、社員さんが丸福さんに食べに行けば、「この美観レベルにしてほしいんだな」ということが一発で伝わります。
商品の陳列についても、「『いよてつそごう』(現 伊予鉄髙島屋)の地下食品売り場のようにしよう」と伝えたといいます。
「ああしなさい」「こうしなさい」と言葉で説明するのではなく、「○○のようにしよう」と言えばいいことを会長から教えていただきました。それ以降、ありたい姿が定まったら、それを具現化している会社を見つけて、そこを目標にすることにしています。
どうせ目標にするなら日本一の会社がいいに決まっています。三翠園はホテルですから、例えば「加賀屋さんの○○のようにしよう」「そこに関しては、宇宙一のレベルにしよう」などと社員さんに熱く語りかけようと思います。