叱る意味
社員さんの叱り方に悩んでいる経営者は多いと思います。かくいう私も、叱り方の下手さにおいては、世界チャンピオン級であったことを自認しています。たくさん失敗をして、いっぱい社員さんが辞めてしまった苦い経験があります。
今でも、意識していないとチャンピオンに返り咲きしてしまいます。それでも、10年前、20年前、30年前の自分と比べたら、だいぶ、叱り方が変わったと思います。
昔は、「叱る」のではなく「怒って」いました。不満を感じて気持ちが荒立ち、感情的に文句を言っていました。伝え方がまずかったと反省しています。
とはいえ、私は、決して「自分の意に沿わず不愉快だから」という理由で叱っていたのではありません。「いい会社にしたい」という目的のために叱っていたのです。この点は、昔も今も変わりません。
ところが、長年、人を叱っていると、叱るという行為が、「いい会社にするという目的」を達成する「手段」に必ずしもならないことがわかってきました。いくら叱っても何も改善しないことを、何度も何度も嫌というほど経験したからです。もはや叱る意味がありません。
表面化した社員さんの行為を叱るのではなく、なぜ、社員さんがそういう行為をしたのかを聞いて、その根本的な原因となった問題を解決しないかぎり、本当の意味で「いい会社にする」ことはできないと思います。では、その原因はどこにあるのかというと、それはすべて会社にあるのだと思います。
私は、「ミスやクレームの原因はすべて会社にあります。皆さんに責任はありません。皆さんは、至らない会社の犠牲者なのです」と言い続けてきました。なぜそのように言ったのかというと、過去に発生したミスやクレームの原因を調べてみると、すべて会社に責任があったことがわかったからでした。会社で一番の責任者は社長ですから、すべての犯人は社長ということになります。ですから、社員さんを叱っても意味がないのです。叱る相手は社長である自分です。
ところで、何度言っても同じ過ちを繰り返す人がいます。そういう人には、つい「前にも言ったよね」「あの時も言ったでしょ」と言ってしまいがちです。しかし、そんなことを言っても、嫌みになるだけで、何も改善しません。
どうしたらいいのかというと、原因を相手に見い出そうとするのではなく、自分に見い出すことだと思います。つまり、何度言っても、同じ過ちを繰り返すのは、言っていることが相手に伝わっていないからであって、こちらの言い方が悪いということになります。
ですから、その場合は、かみ砕いて繰り返し伝えます。「伝わらなくてごめんね」と謝って、何度も言います。私の経験では、100回同じことを言ってわからなかった人はいません。根気の勝負です。そうやって相手に伝わるまで伝える。シンプルにこれに尽きます。こう考えるようにすれば、腹を立てたり、嫌な思いをしたりすることは少なくなり、組織はもっとうまくいくようになるのではないかと思います。