心のバリアフリー(前編)

私は、昨年、高知県教育センター主催の「次世代リーダー育成研修 高知「志」塾」に登壇させていただきました。その時のご縁で、高知県立盲学校の先生と交流があります。
先般、先生から「生徒たちにホテルの宿泊を体験させてあげたいのですが受け入れてもらえますか」というご相談を受けました。盲学校の生徒さんは、ひとりでホテルや旅館を利用したことがないので、将来、進学や旅行などの際に困らないように、予行練習をさせてあげたいということでした。聞くと、チェックイン、チェックアウト、ビュッフェ形式のレストラン利用など、ひとりでしたことがないため、大変不安があるとのことでした。
私は、「全然OKですよ」「大丈夫です。任せてください」と即答しました。これは私の悪い癖なのですが、どんなに新しい試みであっても、自分の頭の中に「イメージ」ができたら、その段階でOKの返事をしてしまう傾向があります。
私は、「これは大事だ」と思ったら、トップダウンで即決しますので、後から知らされた現場の社員さんは、「また思いつきで勝手なことを!」と、よく眉をつり上げたものです。
しかし、ホテル業はありがたいもので、普段から、いろいろな方にご利用いただいておりますので、盲学校の生徒さんを受け入れることは、現場の社員さんたちにとって、さして特別なことではなく、びっくりするくらいすんなり受け入れてもらえました。あとは日程調整をする程度で、臨機応変に当日を迎えました。
せっかくの機会なので、障がいをお持ちの方が遠慮なく三翠園をご利用いただけるように、メディアに取材してもらおうと考えました。先生にその旨を相談したところ、女子学生のNさんの宿泊体験を取材させてもらうことになりました。テレビ局、ラジオ局、新聞社に声をかけた結果、テレビが取材・放映してくれることになりました。
当日は、テレビの取材クルーが入りますので、他の宿泊客にご迷惑がかからないように、変則的な流れで宿泊体験をしていただきました。朝、8時40分ホテル入りからスタートし、チェックインの前に朝食のシーンから撮りました。朝食会場は9時までなので、ほとんどのお客さまの食事は終わっており、他のお客さまに取材でご迷惑をおかけすることはありません。
ビュッフェスタイルの朝食ですが、いろいろな問題点がわかりました。まず、お皿の前にある表記が読めないため、何が盛られているお皿なのかまったくわかりません。当館特製の○○という自慢料理も、何が特製なのかわかりません。しかも、どうやってお料理をお皿に取ったらいいのかもわかりません。「これでは、誰かが付き添って、お料理の説明をしてあげるようにしないと、ビュッフェを楽しんでもらえないなあ」と思いました。
でも、ありがたいことにお料理自体は大変好評で、何回もお代わりをしに行っていただけました。私は、早食いなので、さして味わうこともなく、さっさと食べて終わりという感じですが、皆さんには、何回もお代わりしてゆっくり食事を楽しんでいただけて、うれしくなりました。
さて、チェックインです。通常、目の不自由な方は、ご家族の方と一緒に来館し、ご家族の方が手続きをされます。当社の社員さんも「26年間務めていますが、目の不自由な方のチェックインをお手伝いするのは初めてです」というくらい戸惑っていました。
そもそも、目の不自由な方のためのチェックイン用紙がありませんので、代筆形式で、ホテルのスタッフがサポートするしかありません。また、全盲の方と少し見える方とでは、誘導などのサポートが異なることも初めて知りました。
さて、お部屋へご案内したのですが、問い合わせのためにフロントに電話をしようにも、電話機がどこにあるのかがわかりません。電話機を探し当てたとしても、「フロントは何番で~」という表記が読めません。
(後編に続きます)