聖なる夜(その2)

それはご家族にとって、そして私にとっても信じられない出来事でした。これまでも、現職の仲間が何人か高齢で亡くなったり、病気で亡くなったりしたことはありました。交通事故で亡くなった社員さんも過去に2名おいでましたが、「まさか」という出来事でした。「あの時、現場の変更をしていなかったら、通勤途中にこんなことになることもなかったのではないか」。悔やんでも悔やみきれない思いが込み上げました。
 彼には、小さなお子さんが3人います。「何か会社としてできることはないだろうか」。考える日々が続きました。

 季節は秋となり、冬となり、いつの間にかクリスマスの時期になりました。当社は社員さんのためにいろいろ楽しいイベントを催していますが、今年は、クリスマスイブに何か幸せな思いをしてはいけないような雰囲気が個人的にありました。
街はすっかりクリスマスムード一色となり、楽しいクリスマスソングが流れていました。ふと、「クリスマスイブ」と「会社として彼の家族にできること」がつながりました。私がサンタクロースの格好をして、毎年、クリスマスイブに彼の子どもたちにプレゼントを届けようと考えたのです。
彼の子どもたちが大きくなって、いく過程でなにか困るようなことがあったときのために、当社を頼ってもらえるような関係をつくっておこうと思いました。子どもたちが大人になるまでフォローしようと勝手に決めました。
どうせサンタクロースになるなら、本社の社員さんのお子さんのいる方にもと考えました。
しかし、彼は7月に事故で亡くなったばかりです。あれから半年もたっていません。こちらの勝手な思いが、「あまりにも不謹慎」と怒られるかもしれません。とはいえ、サンタクロースはサプライズだからこそ大きな喜びがあります。事前にアポイントをとるわけにもいきません。
 どうしようか真剣に迷いました。でも、ひょっとして子どもたちは寂しいクリスマスイブを迎えているかもしれません。
ただ自分の経験で中学2年の時に急に父が亡くなった時のクリスマスはあえて楽しくやった記憶がどうしても忘れれませんでした。
勇気を出して、彼の家に行くことにしました。
遂にクリスマスイブの夜がきました。サンタクロースの格好をして、彼の家の玄関前に立ち、呼び鈴を鳴らしました。さすがに帽子は脱いで、直立不動で恐る恐る「ピンポン」と鳴らしました。
なかなか扉は開きません。しばらく待っていると、ついに扉が開きました。
(その3へ続きます)