うわさの料理
最近、料理が「おいしい」「おいしい」といろいろな方に言っていただけます。なんだか恥ずかしくなるぐらいです。しかも、一般のお客さまからだけでなく、歯に衣(きぬ)着せぬ批評家のロータリークラブの皆さんからも「何か三翠園、最近おいしいよね」「何したの?」という言葉をちょうだいするようになりました。
同業者の方の耳目も集めているようで、「何であんなに三翠園さんの料理はおいしくなったんだ!?」と会議で取り上げられたり、「うちも負けるな」と社長から発破をかけられたりしたという話も伝え聞いています。
私は、これまでの人生の中で人さまから褒めていただいた経験が少ないため、こういったお褒めの言葉にどう反応したらいいのかわからず、「ああ、ありがとうございます」ぐらいしか言えず、恐縮しています。
「中澤さんは何をしたの?」とよく聞かれますが、言うまでもなく私が調理するわけではありませんので、おいしくなった最大の理由は、調理グループのみなさんが力を合わせて日々がんばってくださったおかげにほかなりません。
私がしたことといえば、全面的に現場を信頼したことです。日々の判断は、現場に一任しています。あえて私がしたことをもう一つ挙げるなら、現場のお困り事を解決したぐらいです。
私は、社長に就任して、真っ先にしたことは全社員さんと面談をしてお話をお聴きすることでした。総料理長さんのお話は1番にお聴きしました。長年のお困り事、経営に関する事など、たくさん教えていただきました。それらをメモして、ほぼすべて改善してきました。例えば、「調理場のエアコンが壊れているけれど、修理をお願いしてもお金がないの一点張りで修理してもらえない」とか「新しい調理道具を買いたいけれど、お金がないと言われて買ってもらえない」などなど。仕事をする環境が整っていなかったのです。
それでも、職人としての誇りを持っている方たちですから、不平不満を言うこともなく、がんばってこられました。私からみると、なぜ、こんな当たり前の要望を今まで通してあげなかったのか不思議でなりません。経営が間違っていると思いました。
ですから、私は徹底的に現場をサポートすることを決めたのです。「こういう料理を作ってみたい」と相談されたら「ああ、それ楽しみですねお願いします」と答え、何かご要望があれば「了解しました」「はい喜んで」と返答してきました。まだまだ、完璧にサポートができているとは思っていませんが、作りたい料理を作れる環境に少しは近づいたのかなと思います。
私は、お料理をおいしく感じていただけるようになった背景には、調理グループの努力だけではないものが影響していると感じています。先般、お客さまからのうれしい評価について、菊池総料理長とお話をしたのですが、その際、営業グループの受注の仕方が、以前と違ってきていることが話題となりました。どういうことかというと、お客さまからのご要望をお聞きすることが少なくなったのです。
これは、お客さまのニーズを無視するということではありません。三翠園の強みである「総料理長が、毎朝、中央市場に足を運び、厳しく目利きして仕入れしていること」「仲卸業者と長年の信頼関係ができているため、当日のいい鮮魚を仕入れできること」をご説明することで、お客さまからの信頼が得られ、ほとんどの受注が料理長お任せプランになったということです。つまり、三翠園の強みが発揮できるようになったのです。このように、料理がおいしくなった背景には、営業グループと調理グループの連係プレーがありました。
それだけではありません。ホールスタッフさんは丁寧かつ迅速にお料理を客席にお届けしていますが、お料理を運ぶだけが仕事ではありません。お客さまとコミュニケーションを取ることも大事な仕事だと思います。もし、ホールスタッフさんが感じの悪い対応をしてしまったら、どんなにおいしいお料理であっても、台無しになってしまうかもしれません。
これは営業の社員さんから聞いた話ですが、営業の社員さんは、料理長お任せプランであっても、お客さまの男女比や年齢などを事前に調理グループにお伝えしているそうです。また、宴会が始まってからも、ビュッフェ皿に盛られたお料理の状態などをスマホで撮って、「このお料理は大変好評です!」とか「このお料理は残っています」という具合に調理グループと連携を取っているそうです。
このように、お客さまのお料理には、いろいろな人がかかわっています。受注した営業さん、最高の食材を仕入れ・調理する調理グループさん、お客さまとコミュニケーションを取りながら配膳するホールスタッフさん、下膳された食器類を洗浄し後片付けする調理補助のみなさん、みんなの思いが一つになっていないと、お客さまにおいしいと感じていただけません。チームワークと連携プレーがきちんと機能して、はじめて「高品質」になるのだと思います。
お客様アンケートにも変化があります。私が着任した当時のアンケートには、「社員がぼーっと立っている」とか「スマホで遊んでいる」とか「対応が不親切だ」というように、クレームが多く見られました。旅行サイトの「じゃらん」や「楽天」にも同様のお叱りがたくさん書かれていました。
それが今では、申し合わせたように「親切だ」「感じがいい」というお声をいただいています。いいコメントの書き方見本をまねしているのではないかと疑いたくなるほどです。「親切」という言葉を、これほどいただけるようになったことは、本当にありがたいことだと思います。
三翠園のお料理の隠し味は、社員さんたちのチームワークや連携プレー、そしておもてなしの姿勢です。こうしたものが加味されて、お料理がおいしく感じていただけるようになったのだと思います。
会社のブランドというものは、急に上がるものではなく、決められたルーティンをきっちりやり続けた結果、どこかの時点で上がり始め、口コミも増え出すものです。今、これまでの努力の成果が出始めた時なのだと思います。
最後にもっと凄い事を発見しましたそれは「エピソード記憶」です。またどこかでご紹介いたします。