毎日が初演
「ショーは毎日が初演」。この標語は、東京ディズリーリゾートで働く全てのキャストたちの姿勢(行動指針)を表したものです。
ディズニーテーマパークは、パーク内のあらゆるものがテーマショーという観点で造られ、構成されています。舞台で働く従業員を「キャスト」と呼び、キャストは「役者」として、その施設やエリアのテーマに合わせたショーを演じています。つまり、キャストもショーの一部であり、キャストは期待をもって東京ディズニーリゾートを訪れるゲストのために、「ショーは毎日が初演」の気持ちを忘れずに、ショーを演じています(オリエンタルランドホームページより)。
今回のブログのテーマは、この「毎日が初演」についてです。
最近、アレルギー疾患の方が非常に多くなってきたように思います。ちなみにアレルギーとは、食物、薬剤、花粉、ほこりなど、一般的に、人体にとって無害な物質によって過剰な免疫反応が起こることをいいます。
私の知人も、かなり重いアレルギーをもっています。飲食店は、アレルギーをもっている人が来店すると、個別に対応をしなければならないため、作業効率が悪くなります。
これは知り合いから聞いた話ですが、「アレルギーがあります」と言った瞬間、店の人に「あー、うちは無理」と、断られることも多々あるそうです。もし、「はいはい、大丈夫ですよ」と言われたとしても、「本当に対応してくれるのか?」「安請け合いしていないか?」と、疑心暗鬼に駆られるそうです。
先日、その知人は、ある料理屋の女将とひょんな所で出会い、「ぜひ、またお店にいらしてくださいよ」と言われたそうです。知人は、何年もそのお店に行っていませんでした。「たまにはあの店にも行かないと悪いな」と思い、店に予約の電話を入れたそうです。6人の宴席でした。
電話に出たのは、アルバイトの女性です。知人が「こういう対応はできますか?」と確認するたびに、「ちょっとお待ちください」と言って、彼女はご大将に聞きに行きました。そして、「はい、大丈夫」ですと答えます。まるで伝書バトのように、メッセージをもって、電話と大将の間を行ったり来たりしていたそうです。
そうこうした後、「では、6名さまですね。承りました」となったのですが、最後に「あのう、1人アレルギーがあるのですが大丈夫ですか?」と尋ねたところ、また伝書バトが飛んで行き、「うちはアレルギーは無理です」と断られたそうです。
知人が言うには、その料理屋には、創業期によく通っていたそうです。当時は、お客さまが少ないこともあって、大将がお客さまからの電話を取って、「そういうアレルギーなら対応できますよ」とか「ここまでは対応できますが、それはちょっと無理です」などと丁寧に対応してくれていたそうです。
ところが、お店が繁盛してくると態度が一変しました。大将はお客さまの電話には出ず、電話はアルバイトに取らせるようになりました。創業期は、「少々のことは頑張りますので、何とかお願いします」と頭を下げていたのに、人気のお店になったとたん、アレルギーという言葉を聞いただけで「はい無理!」とむげに断るようになってしまったのです。
一方、私がひいきにしているお店は、何年たっても、店が人気店になろうがなるまいが、ずっと変わらず店主がお客さまからの電話に出ています。この違いはどこから生じるのだろうと考えました。それは仕事に向き合う姿勢の違いではないかと思うのです。
冒頭のディズニーテーマパークの話に戻ります。キャストは「役者」として、その施設やエリアのテーマに合わせたショーを演じています。同じことを、毎日、繰り返し繰り返し、最高の笑顔で演じ続けます。「飽き」や「慣れ」との戦いです。
それに打ち勝てているのは、「ショーは毎日が初演」の気持ちを忘れないように自分を戒めているからだと思います。
ディズニーテーマパークの企業使命は、人々に「夢・感動・喜び・やすらぎ」を提供することです。それを実現するために、キャスト全員が「ショーは毎日が初演」の気持ちを忘れずに、ショーを演じているのです。
三翠園には、日本全国にとどまらず、世界中からたくさんのお客さまがいらっしゃいます。私たちにとっては、毎日、同じ作業の繰り返しですが、お客さまにとってはどれも初めての体験です。おもてなしする私たちが、「飽き」や「慣れ」に負けてしまったら、お客さまに感動、喜び、やすらぎをご提供できません。
毎日、どのような姿勢でお客さまと向き合うのか、それを確認することがホテリエにとっては、非常に大事なことだと思いました。