当たり前を疑え
今、三翠園でもっともホットなスローガン(標語)は「当たり前を疑え」です。このスローガンの下、かつて「これは当たり前だ」と思っていたものを、全部、根底から見直しています。
その一つの成果が、浴衣の部屋置き廃止です。9月19日より、試験的に浴衣をフロント脇に設置して、お客さまに部屋にお持ちいただく方式に変更してみました。
参考になったのは青森県のある老舗旅館さんです。私が利用したその旅館は、部屋に浴衣を備え置かず、各フロアの廊下に浴衣と帯の置き場を設けて、お客さまに部屋にお持ちいただくようにしていました。このやり方は、ビジネスホテルではよく見かけますが、老舗旅館さんが採り入れているのを見たのは初めてでした。
この方式にすることで、①各部屋にいろいろなサイズの浴衣を取りそろえておく必要がないため、浴衣の必要総数を減らせる、②お客さまが1人で何枚もお使いになることが少なくなるため、クリーニング代が節約できる、③浴衣を各部屋に配置する手間が省ける、というメリットが生じます。この中で特に大きいのが③です。
コロナ禍は終息に向かっていますが、ホテル旅館業を取り巻く情勢は依然として厳しいものがあります。深刻な人手不足、さまざまなコストアップ、「ゼロゼロ融資」の返済などなど、今まで通りのやり方では立ちゆかなくなっています。
そのような中、浴衣の部屋置きを廃止する話は、三翠園でも何回も検討してきました。しかし、「老舗旅館らしくない」「お客さまにご迷惑をおかけする」「どの部門の誰がどのようにやるのか」などと疑問を呈する意見が噴出し、なかなか踏み出せないでいました。
そのような私たちの背中を押してくださることになったのは、高知市内の老舗旅館「土佐御苑」さんの取り組みでした。私たちがダラダラ悩んでいるうちに、同じ4つ星ホテル(Googleのホテルクラス評価)の「土佐御苑」さんが、いつの間にか浴衣の部屋置きを廃止しておられたのです。「ほらね」ということで、ようやく当社も挑戦に踏み切ることができました。
三翠園は、これまでの当たり前を疑い、さまざまな改革を断行していますが、その際、決めていることがあります。それは、「取りあえずやってみよう」と「ダメならすぐやめよう」という二つです。
以前、「お客さまに、スリッパで夕食会場を利用していただく」という挑戦をしたことがあります。会場の前で、お客さまが脱いだスリッパをそろえる作業が大変だったからです。この世で一番高いのは人件費だと思っています。スリッパのまま会場を利用していただければ、人員の有効活用ができます。
この時も、疑問や反対意見が噴出し、結論が出ませんでした。議論しても答えが出ないときは、「取りあえずやってみよう」の姿勢で挑戦してみることにしました。
結果は大不評でした。お客さまは、畳の部屋にスリッパで上がることに、大変抵抗感をいだかれたのです。挑戦は1日で終わりました。私は、この挑戦を「失敗」とは思っていません。改革していくための「経験」だと捉えています。挑戦しなければ何も得られませんが、挑戦すれば、「納得」が得られます。「知見」も得られます。何より「取りあえずやってみよう」という前向きな姿勢が得られます。
まだまだ、改革すべきところはたくさんあります。「当たり前を疑え」というスローガンをみんなで唱え、「取りあえずやってみよう」「ダメならすぐやめよう」の姿勢で、三翠園の改革を進めていきます。