叫ばれる魚

2022年10月~2023年9月まで不定期で高知新聞さんの勧進帳の連載をさせて頂きました。
採用になるのは難しかったですが書いてきたものをここにアップさせて頂きます。

高知県には、夏の風物詩ともいえる魚がある。「新子」(しんこ)と呼ばれるメジカ(ソウダガツオ)の幼魚だ。「今日、新子入っちゅうよ!」と声をかけられたら、ほとんどの人が注文してしまうほど人気の魚だ。
新子は、生後1年未満の幼魚で、モチモチとした食感が特徴。旬は短く、8~9月下旬しか水揚げされない。県民にとって、まさに垂ぜんの食材である。
さて、高知県には春を告げる魚もある。「のれそれ」(アナゴ類の幼生)だ。いまだに生態が解明できておらず、謎が多い生物である。
僕の父が生まれ育った浜改田は、「どろめ」(イワシ類の稚魚)の加工をしている会社が多くあった。幼い頃、漁師のおじさんに「いま上がってきたどろめや、食べてみい」と、口に入れてもらった覚えがある。なんとおいしかったことか。
その「どろめ」漁のパッチ網に混じって漁獲されるのが「のれそれ」だ。今でこそ高級魚だが、昔は捨てられていたものだ。
今年も、新子の季節になった。僕の行きつけの店でも、「今日、新子入っちゅうよ!」という声が聞けるかもしれない。すぐに完売してしまうので、あれば「やったー!」と思わず叫んでしまう。私にとって新子はガッツポーズの魚なのだ。(夢)