痛ましいプール事故

7月5日、高知市の小学校4年の男子児童が、水泳の授業中にプールで溺れて死亡するという痛ましい事故がありました。
最初に、保護者の方の悲しみは計り知れないものとお察し致します。謹んでご冥福をお祈りいたします。
報道によると、児童が通う小学校のプール(水深100~119センチ)は、ろ過装置が故障して使用できなくなったため、市教育委員会の判断で、近くの中学校のプール(水深114~132・5センチ)を利用して水泳の授業を行っていたそうです。児童たちは中学校まで歩いて移動し、水泳の授業を2コマ連続で受けていました。事故が起きたのは、3回目の授業の2コマ目でした。
当該男児は水泳が苦手で、事故前、同じプールで教員に水中で抱きかかえられたことがあり、教員は校長に男児の泳力に問題があると伝えていたそうです。
この日の水泳授業には、4年生2クラス計36人が参加しました。教頭と学級担任2人の計3人が指導していましたが、学級担任2人は水に入ってバタ足の指導をしており、プール全体は見渡せていませんでした。プールサイドにいた教頭も泳ぎの得意なグループを見ていたそうです。
こうした中、事故が起こってしまいました。男児は、最も深い水深約130センチ付近で同級生に発見され、引き上げられました。
 
 今回の事故では、学校側の不適切な対応が気になりました。男児が通う小学校では、事故の日の夕方、全校児童の保護者に対して、保護者会の開催を連絡しましたが、亡くなった児童の保護者には開催の連絡をしませんでした。それを知った遺族は、学校に「謝罪や話し合いができていない中で保護者会を開くのは順番が違う」と訴え、保護者会は開始直前、急きょ延期されました。
本件で、一番心を痛めているのは当該男児の保護者です。真っ先にすべきはその保護者への謝罪や説明です。保護者会ではありません。順番が違いました。
 また、報道によると、教員は小学校の帰りの会等で児童に「事故のことは誰にも言わんとってね」「ぐっと心に抑えちょってね」と伝えていたそうです。真偽のほどはわかりませんが、児童に対して何かしら不適切な対応があったことは間違いありません。

 本件では違和感も覚えました。第三者による検証委員会の設置です。市教育委員会は、事故の詳しい原因を調査するために、第三者による検証委員会を設置し、24日、初会合を開きました。
そもそも「第三者委員会」とは、不祥事が発生したときに、原因究明や再発防止策の検討などを目的に設置するものです。組織から独立した第三者機関に委ねる理由は、調査・検討の客観性を担保し、組織の社会的信頼を回復させるためで、主に、いじめやハラスメントなど双方の意見が食い違う場合に設置します。今回は、そういう事案ではありません。
先日、検証委員会の初会合が非公開で開かれました。関係者は、「検証委員会に委ねていますから何も話せません」と言いますが、それもおかしな話だと思いました。保護者は知りたいはずだからです。こまめな情報公開を望みます。

懸念していることもあります。教員に安全確認の業務が新たに課されることです。これは、決して安全確認業務は必要ないといっているのではありません。安全確認業務は絶対にしなければいけないことです。そういうことではなく、多忙を極めている教員の職場改善をせずに、新たに負担だけを増したら、教員の多忙感は募るばかりです。こういうことをしていたら教育現場が崩壊してしまいます。早急にやるべきことは、教員がやらなくてもいい業務を排除し、子どもたちに寄り添う時間を確保してあげることだと思います。つまり「問題解決」です。
今回の事故でいうなら、監視体制を強化する「問題対処」よりも、安全確認業務に人数と時間をかけられるようにする「問題解決」を図るべきだと思います。
市教育委員会は、臨時の校長会を開き、今年度、市立小中などで水泳の授業を行わないことを決定しましたが、これも「問題対処」だと思いました。そもそもプールはなぜ壊れたのかを調査して、壊れないためのメンテナンスをどうするのかを考えるべきです。それが「問題解決」です。
「プールは危ないから、プールの授業は全部やめる」というのは、組織防衛の発想に起因する「問題対処」だと思います。公園でのボール遊びは危ないから禁止、シーソーも禁止、滑り台も禁止、ブランコも禁止としていったら、子どもたちの「社会性を育む機会」を奪っていくことになりかねません。
しかし今から何をしても尊い命はかえってきません