新しい風は吹くのか
日本大学が一連の不祥事に揺れ続けています。
発端は2018年5月6日に行われたアメリカンフットボールの試合でした。この日、日本大学フェニックスと関西学院大ファイターズとの定期戦が行われましたが、試合中、日大は重大な反則行為をしました。世間で言われている「悪質タックル問題」です。
この問題では、後日、日大の当該選手が記者会見を開き、相手の選手や関係者に対して謝罪をした上で、反則行為については監督とコーチからの指示があったことを公にしました。これに対して大学側も記者会見を開き、そのような指示はしていないと、選手の話を全面否定しましたが、会見は大炎上。日大は再度記者会見を行い学長が謝罪する事態になりました。
こうした日大側の対応を受けて、関西学院大学の選手側は被害届を提出、日大の監督とコーチを傷害容疑で告訴しました。監督とコーチの関与については、後日、第三者委員会が監督とコーチの指示があったことを認定、関係者は処分されました。
その後、日大アメフト部は、中村敏英監督の元で立て直しを進めていましたが・・・。
次の不祥事は、日大の前理事長・田中英寿(たなか・ひでとし)氏の逮捕です。田中氏は、2008年から2021年12月1日までの5期13年間、理事長として権勢をふるってきた人物で、周囲からは「日大のドン」と恐れられていました。
田中前理事長は、リベートなど計約1億2000万円を税務申告せず、約5300万円を脱税したとして、東京地検特捜部は2021年11月29日、日大理事長の田中英寿容疑者を所得税法違反の疑いで逮捕。翌22年4月、懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円の有罪判決が確定しました。
なお、田中氏は逮捕後の2021年12月1日、日大の理事長を辞任、その後、病気療養をしていましたが、本年1月13日、この世を去りました。
相次ぐ不祥事を払拭すべく、日大は、2022年7月1日、新理事長を迎えました。作家の林真理子氏です。新体制は外部人材を多く起用し、22人の理事のうち9人が女性という布陣になりました。
さあ、「新生日大」のスタート!という時に、またもや不祥事が起こりました。しかも、「悪質タックル問題」でチームの再建を図ってきたはずのアメフト部での不祥事でした。今度は、いわゆる「薬物事件」です。
簡単に経緯を振り返ります。第1報は、2022年11月27日、アメフト部の部員が監督に大麻使用に関する自己申告をしました。しかし、大学側はこの時点で警察への通報をしていません。2023年7月6日、寮内で大麻と疑われる植物片を発見した際も、大学側は警察に報告せず、12日間も植物片を保管していました。そして、8月、警察は大麻取締法違反と覚醒剤取締法違反の疑いで部員1人を逮捕、10月に部員2人目を逮捕、11月に部員3人目を逮捕しました。
大学側は、逮捕者が1人出た時点でアメフト部を無期限の活動停止処分にしましたが、5日後に処分を解除しました。しかし警察による捜査の進展を受け、2人目の逮捕者が出る前に再びアメフト部を無期限の活動停止処分にしました。
日大は、2023年12月12日、中村敏英監督ほか指導陣の解任を決議し、同月15日の臨時理事会でアメフト部の廃部を正式に決定しました。
大学は、部員などに不利益が生じないように、競技部としての新たな部を立ち上げ、推薦入学で入部する学生も受け入れる方向性を示しました。
さて、日大アメフト部の薬物事件は、誰が考えても、真面目にスポーツに励みたい選手にとって本当に迷惑な話だと思います。特に、スポーツ推薦で入学した子たちの将来が気になります。大学側は「受け皿」を用意すると説明していますが、どのようなものになるのか明確に示していません。子どもたちの希望を最優先に考えて、ほかの大学に頭を下げてでも、転学して入部できるような選択肢も用意してあげるべきではないでしょうか。
私は、アメフト部の問題は氷山の一角だと思っています。前理事長による長期政権の弊害の一つにすぎません。根本的な風土改革が必要です。林真理子理事長は、田中前理事長派を一掃したいようですが、果たしてうまくいくかどうか。
林真理子氏は、日本大学藝術学部文芸学科の卒業生であり、直木賞作家として有名です。日大初の女性理事長ということもあり、大学はイメージの刷新を図ったのだと思います。
しかし、林氏は作家であり、組織マネジメントの実績がありません。もしかしたら「何もわからない理事長をみこしに据えて、今まで通り大学を運営しよう」と思ったのではないか、という疑念すら生じます。もしそうなら、また不祥事を繰り返すことになりかねません。これは組織として非常にもったいないことだと思います。
私はご縁があって、日本大学の卒業生の方を多数存じ上げています。素晴らしい方ばかりで、おぼろげな記憶では、四国は、日本大学出身の社長さんが最も多かったように思います。それぐらい立派な経営者を多数輩出している日大が、不祥事に揺れています。OBはもちろん、これから日大に子どもを入れたいと思っていた保護者にとっても残念極まりないことでしょう。
個人的な意見ですが、私は、日大のことをわかっていて、経営実績もあるOBの方が、立て直しにボードメンバー(意思決定を行う役員)に入るべきだと思います。私の知人は、一連の不祥事対応があまりにまずいことを嘆き、「自分がやるしかない。日大にいきたい!」と熱く語っていました。
林理事長は、新体制発足時の記者会見で「新しい風が吹いている。議論活発化を確信しました」「学生ファーストの実現に向けて力を尽くすことを約束します」と話していましたが、実際そうなるかどうかは「過去との決別」「膿(うみ)を出し切る」ことができるかどうかにつきます。
日大には、日本一の規模を誇る大学として、かつての栄光を取り戻していただきたいと願っています。