短いほど喜ばれます
コロナ禍の時は言うまでもなく、その少し前から結婚式の披露宴に招待される機会がめっきり少なくなりました。
昔、高知県では、結婚披露宴となると親の知り合いにとどまらず、親の知り合いの知り合いまで招待したものですから、披露宴の参加者は300人を超えることもざらでした。そうなると、新郎新婦を直接知らない人まで参加しており、祝辞を述べる人が新郎新婦と初対面のあいさつをすることも珍しくありませんでした。
私は、いろいろな披露宴に出席しましたが、今でも記憶に残っている感動的な披露宴があります。それは、新郎のご両親が号泣していた披露宴です。新婦のご両親の涙はよく目にしますが、新郎のご両親の涙は初めて見ました。「こんなに愛されてきたんだなあ」と思うと、込み上げてくるものがあり、盛大にもらい泣きしてしまいました。
昨今、会社の上司が祝辞を述べることはほぼなくなったようですが、かつては結婚披露宴といえば、必ず新郎新婦が勤める会社の上司がマイクの前に立ったものです。上司が話す内容は、新郎新婦へのエールものが定番ですが、中には、自分の会社の自慢話をする人や、自分が海外へ赴任した時のエピソードを延々と話す人もいて、閉口したものです。
私も会社の上司として祝辞を述べてきた一人ですが、私は、自分の名前を言う時間すらもったいないと思っていたくらい、短時間に収めるように留意していました。当然、話すテーマは新郎新婦のことだけです。
祝辞を述べるにあたって、パートナーとなる方のお人柄を知っておきたいので、披露宴の前に一緒に食事をさせていただき、いろいろリサーチするようにしていました。
祝辞で気を使っていたことは、パートナーの「いいところ」を見つけ出して褒めることです。事前のリサーチを徹底して、ご本人すら気づいていないような「いいところ」を見つけ出し、そのことをお話しします。
もう一つ気を使っていることは、やはり話を短くすることです。会社の上司の話を聞きたい人なんて、おそらく誰もいないのではないでしょうか。ですから、話は短ければ短いほど喜ばれます。ましてや、相手側の祝辞が長かった場合はなおさらです。
さて、結婚披露宴では、祝辞のほかに乾杯のあいさつもあります。これは、昔、私の父から聞いた話ですが、乾杯のあいさつで1時間も話した人がいたそうです。あまつさえ、話の終わりに「はなはだ簡単ではございますが~」と言ったものですから、その場にいる全員があぜんとしたそうです。ですから、私は、乾杯のあいさつを頼まれた時も、簡潔を心がけています。
究極の乾杯のあいさつは、何も話さず、いきなり「この度はおめでとうございます。それではいきます、乾杯!」と、わずか数秒で乾杯のあいさつを終えることだと心得ています。
披露宴の式次第をご覧になればわかるように、披露宴は迎賓から始まり、新郎新婦入場、開宴の辞、プロフィール紹介、祝辞、ウエディングケーキ入刀と進み、ようやく乾杯となります。みんな、喉がカラカラになっており、一刻も早く潤したいと思っています。ですから、短いあいさつはとても喜ばれるのです。
過日、久しぶりにある宴会で乾杯の発声を頼まれました。短めの渾身(こんしん)の祝辞を用意していましたが、それまでの方々の話が長すぎて、私の喉は潤いを求めていました。多分の他の方も、幸い、私は他の出席者の方より若干年長だったため、失礼に当たらないと思い、勇気を出していきなり「乾杯!」とだけ発声しました。
それでどうなったかというと、思った通り、おっそろしいくらい喜ばれました。