プロセスを改善する
四国管財では、「日本経営品質賞」の受賞を目指して、本気で経営品質向上プログラムについて勉強した時期がありました。「日本経営品質賞」とは、日本企業の競争力を回復させるために設立された表彰制度で、顧客の視点から経営全体を見直し、自己革新を通じて新しい価値を創出し続ける仕組みを有する企業に授与されます。
そのアセスメント基準書(経営を革新するための枠組み)では、「重視する考え方」の一つとして、「プロセス」をあげています。プロセスとは、組織が目指す顧客価値を実現するために、考え抜いてつくった仕事の流れをいいます。仕事を改善する上で、このプロセスは非常に大事です。
若い頃、私はいろいろな会社に見学に行きましたが、「うちはこうしてますよ」と聞くと、「ああ、そんなふうにしているんだ。すぐマネしよう」と思ったものです。しかし、猿まねは、社員さんたちを大変しんどくするだけで、結局うまくいきませんでした。なぜなら、自社が目指す顧客価値を生み出すために「考え抜いてつくった仕事の流れ」ではなかったからです。
残念ながら、四国管財は「日本経営品質賞」を受賞できませんでしたが、経営品質向上プログラムについて勉強したおかげで、何事においても「プロセス」が非常に気になるようになりました。三翠園にきても、「これはどうしてやっているのですか」「どういう理由でこれを始めたんですか」という面倒くさい質問をあちらこちらでしています。しかし、納得できる理由を聞けることは、まずありません。ほとんどの場合、「前からやっていたから」という答えが返ってきます。
「じゃあ、これやめませんか?」と言うと、「いやいや、上司がやれと言ったから」と答えます。「では、あなたはどう思うの」と尋ねると、「私もやる意味がわかりません」と言います。皆、上司の言うことを素直に聞いているだけなのです。では、その上司はどうかというと、その上司もまた上から言われたことをしているだけでした。言われたことをするだけの仕事をしていたら、絶対に、誰も幸せになれません。
新年早々、「どうして?」と思うことがありました。お正月の三が日、朝7時から、役員が手渡しでお客さまに祝い菓子を配ることになっているというのです。「なぜ祝い菓子を配るの?」と聞くと、昔はお餅をついてお客さまに振る舞っていましたが、世間でノロウイルスが原因の感染性胃腸炎や食中毒が多発したことから、餅つきはやめてお菓子を配ることになったといいます。これについては、コロナ禍の今、非常に納得のいく答えでした。
しかし、まだ疑問が残っています。なぜ役員が配るのかです。それについては、明確に説明できる人はおらず、「三が日なので、社長が配った方がいいのではないか」という漠然とした理由しか返ってきません。では、お客さまは社長が手渡ししていることを知っているのかというと、絶対に知らないと思います。むしろお客さまから見ると、おっさんが「お菓子をどうぞ」と配っているとしか見えません。これでは何の感動も与えることができず、役員の自己満足にしかなりません。非常にもったいないと思いました。
しかも、そのお菓子は老舗和菓子屋さんが当館のために特注で作ったものだといいます。見ると、非常に上品でかわいい干支(えと)のお菓子でした。お客さまに感動という価値を提供するためのプロセスに問題があると思いました。
本来、お客さまに手渡しする際、「この和菓子は、土佐藩御用菓子舗として山内家に愛されてきた西川屋さんに特注で作っていただいたもので、干支のウサギを模したお菓子です。非売品で、この3日間だけ頒布するお菓子です。よろしければどうぞお召し上がりください」などと、一言添えるようにすべきだと思いました。こうすることで、お客さまの笑顔はもっと増えるはずです。プロセスを改善することでお客さまに感動という価値を提供できると思いました。
来年は、お部屋に配布する「祝い菓子引換券」に、お菓子の歴史についての説明と、「当館の社長が、感謝の心を込めて手渡しいたします」と書こうと思います。そうすれば「この人が社長なんだ」と思ってもらえます。せっかくお菓子を配るのですから、そこにストーリーをつけて、価値創造につなげていきたいと思います。
もう一つ、「あれっ?」と思うことがありました。今年のお正月は、久しぶりに大勢のお客さまにご宿泊いただきましたが、ピーク時には朝食会場が満員になってしまいました。大広間も臨時の朝食会場にしていましたが、それでも収容しきれません。急きょ、廊下を挟んだ反対側の別室でお食事をとっていただくことになりました。しかし、その部屋にはお料理がないため、わざわざお料理を取りに別の部屋まで行かなければいけません。お客さまにとって、非常に不便で不満がたまる状況です。
しかし、その別室は、結婚式などで人気がある、三翠園自慢のお庭が見えるすてきなお部屋でした。三翠園の強みといえるお部屋です。黙って、誘導するのはもったいないと思いました。
そこで、「すいません、朝食会場がいっぱいになってきましたので、当館自慢のお庭が見えるお部屋を開放いたします。もしよろしければ、そちらも使えますのでどうぞご利用ください」とご案内しました。すると、「えー、そっちも使えるの? ありがたい」と、喜んでご利用いただけました。プロセスを改善し、ストーリーをつけたことで、不満を感動に変えることができたのです。
まだ公表できませんが、三翠園のオリジナルカクテルをつくろうと考えています。きっかけは、社員さんからの「三翠園のオリジナルカクテルをつくりたいです。すでに何種類もアイデアがあります」という提案でした。私も三翠園の社長就任が決まった時から、「オリジナルカクテルをつくりたい」という夢をもっていましたので、「よし、やろう」と思いました。
シンガポールのホテル「ラッフルズ シンガポール」の「ロングバー」は、シンガポールを代表するカクテル「シンガポール スリング」が誕生したバーとして有名です。三翠園も、自慢のお庭をイメージしたカクテルをつくって広めたいと思います。
先般、オリジナルカクテルをつくることが正式に決まりました。まだ、どんなカクテルにするのかはお話しできませんが、とても楽しみです。「夢はかなうものだなあ」と思いました。
今年の夏は、そのオリジナルカクテルを飲みながら、お庭でのランチが楽しめるようにしたいと考えています。どうぞご期待ください。