土佐時間

かつて、高知の県民性を表す言葉に「土佐時間」という表現がありました。これは、良くいえば「おおらか」、悪くいえば「ルーズ」な時間感覚を表しています。待ち合わせをすると10分、20分の遅刻は当たり前でした。皆、「土佐時間」に慣れっこになっていて、会議でも、式典でも、遅れた人に合わせてスタートします。
若い頃は、たくさん結婚式に出席しましたが、そこでの“あるある”は、あいさつするはずのご来賓の方が遅れてくることでした。来賓が来ないことには式を始められませんから、披露宴の開宴が大幅に遅れることもザラでした。
私は、そのような光景を見るにつけ、「遅れるということは、時間管理ができていないということだ」と思って憤慨していました。

ところが、単純にそれだけが原因ではないことに気づいたのです。それは会社の飲み会でした。会社のお金で飲めるとあって、私はいそいそと行きました。三翠園のビアガーデンだったと思います。
当時、会社の飲み会は、社員にとって特別な意味がありました。普段、会社は社員さんの意見を聞きません。しかし、この日だけは上司に意見やグチを思う存分ぶちまけることができます。そういう意味で、皆が待ちに待った特別な日なのです。
18時開宴です。皆、がんばって仕事を早めに終わらせて、上司を待ち構えます。ところが上司はなかなか来ませんでした。こういう宴席に、必ずといってもいいくらい、上司は遅れてきます。だいたい2時間遅れです。私は、遅れてきた上司を見て、その理由がわかりました。
理由は2パターンあるようです。一つは、上司としての存在感や威厳を示したいというものです。「やっと山積みの仕事が片付いた」「俺はこんなに仕事をしているんだぞ」と言いたいのです。そして、「こんな時間までお疲れさまでした」「いつも忙しいのですね」と言ってほしいのです。私はひねくれ者なので、そうとしか思えません。
もう一つは、早く行くと社員さんからつるし上げられたり、面倒な相談をもちかけられたりするからです。つまり、逃げているのです。

四国管財には、ソフトボール部がありました。しかし、時間感覚がルーズでしたから、ソフトボールの試合でも、定刻にメンバーが集まりません。相手チームを、1時間待たせても平気でした。私は、「本当に気持ち悪い」と思ったものです。
そんなこんなで、社内の時間感覚を一新しようと決めました。まずは会議から。今では当たり前の話になりましたが、きっちり時間通り始めました。上司が遅れても始めます。来なかった人が悪いのです。こうして、何事も定刻に始める文化をつくっていきました。いま、私の周りには、ほとんど「土佐時間」の人はいなくなりまし