アナウンスだけで乗客を魅了 ~ANAの名物機長(前編)~
私はせっかちですから、飛行機の座席は、搭乗口に近い1Aになるべく座るようにしています。1Aは「VIP用に空けている席」といわれており、事前予約はできません。直前になって、空いていたら予約できるという特別な席なのです。
この席は、別な意味でも特別な席です。搭乗口に近いため、この席の人には、非常時にCA(客室乗務員)さんを手伝って、乗客の脱出を補助する役割があります。ですから、この席に座る際は、いつもCAさんから「すみません。こちらのお席の方には、緊急時にお客さまの誘導をお願いしておりますが、ご協力いただけますでしょうか」と相談されます。
このときは、いつも「もう、まったく任せてください! 全力でがんばります!」と答えるようにしています。CAさんが笑ってくださったら、「やった!」と心の中でガッツポーズします。どうせなら全力で応援したいと思っています。
先般、久しぶりに飛行機に乗りました。コロナ禍で遠出をしなかったからです。いざ、乗ろうと思ったら、チケットの買い方すら忘れてしまっていたことに驚きでした。
話は変わりますがこのフライトは、記憶に残る感動のフライトとなりました。それは、大阪国際(伊丹)空港から鹿児島空港へ向かう飛行でした。1Aどころか、席のチョイスも間違ってしまい、窓がない席に座わることになりました。私は、飛行機の窓から見る景色が大好きです。とても楽しみにしていました。しかし、いまさらどうすることもできません。私は、めちゃくちゃ落ち込んで、気分はブルーになりました。しかし、このブルーな気分を吹き飛ばしてくれることが起きました。それは、機長の変なアナウンスでした。こんな感じです。
「本日は、世界で最も安全な航空会社ANA全日空にご搭乗いただきまして、誠にありがとうございます。この飛行機は、安全な全日空の中でも、最も安全性が高いボーイング767でございます」
「お客さまの早めのご搭乗のお陰と、弊社の地上職員・整備士の『かんーーーーぺき』な仕事により、早々にドアをクローズできました。これより当機は定時通りに出発し、皆さまを、安全に鹿児島へとお連れいたします」
「本日の飛行ルートの天候は、おおむね良好との報告を受けております。できるだけ、気流のよいところを選んで飛行いたしますが、突然、天使のイタズラの様な、気持ちいい揺れもございます。しかし、飛行には『まっーーーーーたく』影響ございませんので、どうぞご安心ください。完璧な操縦で、皆さまに快適で安全な空の旅をお約束いたします」
「なんや、なんや?」。私は、この機長の変わったアナウンスに驚くとともに、ニヤニヤしてしまいました。こうして、私のブルーな時間は一瞬にしてバラ色に変わったのです。やがて飛行機は着陸態勢に入りました。すると、また機長のアナウンスが始まりました。
(後編に続きます)