重要文化財とお金の役割
三翠園の敷地内には、国指定の重要文化財があります。旧山内家下屋敷長屋です。幕末に建てられた山内家の足軽屋敷で、本格的な武家長屋としての姿を今に残しています。屋内には、土佐藩士や庶民の生活を知ることができる用具や和舟などを展示しています。
下屋敷長屋は、過去、三翠園が高知市に寄贈したものです。現在は、高知市からの依頼を受けて、三翠園が展示館の管理業務や清掃業務を請け負っています。しかし、もったいないことに、きちんとした管理ができていないのが実情です。例えば展示館のスリッパですが、古くなりすぎて来館者に履いていただくには忍びないありさまでした。行政に交換をお願いしたのですが、「予算がないから」の一点張りで、なかなか許可が下りません。
とはいえ、私は「はい、そうですか」と簡単に引き下がらない方なので、粘り強く交渉し、なんとかスリッパを新調していただくことができました。しかし、他にも問題がありました。展示物の敷物がボロボロなのです。非常にみっともない状態です。これについても交換をお願いしたのですが、「予算がありません。寄贈していただけるならお受けします」と言われてしまいました。開いた口がふさがらないとはこのことです。
とはいえ、このままにしていたら、あまりにも展示物が貧相に見えてしまいます。観光にいらしたお客さまにも恥ずかしいことこの上なしです。三翠園の敷地内にあることからも、仕方なく当社が買って寄贈いたしました。これはかなりの金額になりました。
しかし、「予算がないと言えば寄贈してもらえる」と学習されても困るので、管轄の文化財課さんに今後のことについて話し合いの機会を設けていただきました。会議では、多くの関係者に集まっていただき、大切な重要文化財を保存するために、どうしたらいいのか話し合いました。
また、会議では管理業務を請け負っている当社の裁量権についても話し合いました。例えば、これまでは台風の時でも勝手に扉を閉めてはいけない決まりになっていましたが、これからは現場の判断で扉を閉められるようになりました。
会議の翌日、早速、行政の担当者さんが現場に足を運んでくださいました。「重要な文化財ですから、双方できっちり管理していきましょう」とおっしゃってくださいましたので、われわれも「できる限りのことをやらせていただきます」とお応えしました。
この重要文化財には、最近、もう一つ困った問題が発生しました。侵入者が悪いことをするのです。侵入者とは、近所のネコです。近所のネコが、ネズミや鳥などを捕まえてきて、この重要文化財の中に死骸をまき散らすのです。
これについては、「ネコよらず」(猫用忌避剤)を散布したというのですが、何度散布しても、またやって来るそうです。原因は、経費をケチって適切な量を散布していなかったためでした。国の重要文化財保護のための経費は、ケチるべきではありません。少々の経費をケチったことで、文化財が損傷してしまったら本末転倒です。今は、「ネコよらず」をバッチリ散布しましたので一安心です。
「お金」の役割の一つに、モノの「価値を保存」する役割があります。重要文化財は、手をかけなければ価値はどんどん滅失してしまいます。お金は、使うべき時に使ってこそ、本来の役割を果たせるのだと思います。